GET LIMIT 9.激変
嫌なビジョンを見ることが増えた。はっきりとした言葉でそれを表現するのはさすがのラクスにも難しいことだったが、ただひとつだけ言えたのは、キラが深い闇の底へ自ら赴き、そして帰って来なくなる──そんなイメージだった。
かつての大戦の頃にもそんなイメージにつきまとわれて心を痛めては、それでも彼の帰還を信じ、その信じる心を己の支えとして彼女は戦うことができたけれど。
今度は違う。そう思えてならなかった。どれだけ信じても、その信じる心に応える意思は存在しないのではないか、と。かつて彼女らが在った世界は『作られた場所』だったのだから。
作られた世界、作られた者たち、作られた時間と、作られた想い。己ではない第三者によって導かれるままに戦ったあの頃とは違うのだと、ラクスは今更ながらに意識していた。何故ならこの、いま彼女たちが在る世界は、そこに在る者たちの『自らの意思』が必要とされる世界だ。
それまでの意識や想いのすべてがリセットされる訳ではないにしろ、あまりそういった繋がりが意味を成さない世界であることは明確なのだった。
導きの手はもうない。あらぬ地より呼ぶ声もない。勝利へ、達成へ、かつて彼女たちを大いなる終結へといざなってくれた意思の言葉はもうないのだ。そして言うなれば、『ここ』はその意思が、声が生まれ出でた世界。すべての意思の故郷である、最果ての地であった。
ばさばさと鳩が舞う。ラクスは大きな駅の前にある、待ち合わせ名物像の前の石段に腰かけて、道行く人間たちの足並みを眺めていた。間もなく陽も沈もうというのに、誰一人として帰路についているらしき者はいなかった。むしろこれから世を包むであろう闇を待ちわび、そしてその到来に歓喜を膨らませているようにさえ見える。
人間たちはラクスの姿が見えていない。外出のさい、ラクスは決して己の姿を『具現化』させたことはない。『ここ』では己のいでたちが決して有り得ないことを、そして有り得るならば異常に目立ってしまうことを、彼女はよく知っていた。無論それはアスランやイザークにもいくらか言えることであったが、彼らはまだ外見に順応性があり、必要に応じて姿を見せることができる。しかし彼女は違う。
キラと同様、彼女の外見は完璧すぎるのだ。
夕闇の満ちていく空へ視線をあげると、寝床を目指して小鳥や鳩が飛んでいく。本来ならばラクスも彼らのように家へ戻り、明るい部屋の中で楽しいおしゃべりをしながら時を過ごして、そして朝が来るまで眠るはずなのに。
でも今は眠るのが怖い。上品に膝の上で重ねていた彼女の手に力が入る。眠ってしまえばまた夢を見るかもしれなかった。たとえ現実ではないのだと判っていても、そんなビジョンは見るのも嫌なものだ。恐ろしいものはできるなら見たくない。それが当然の心理である。ましてやキラがその対象となる、暗いイメージなど。
ふと視界の隅で白いものがもぞりと動いて、ラクスはそちらへ目をやった。彼女の傍らには真っ白な鳩がうずくまっていた。ただの鳩の、突然変異による無色素種か、それともどこかで飼われていたものが逃げ出してしまったのか。ラクスの姿が見えるにしろ見えないにしろ、これだけ人の多い場所でこれほどリラックスして座り込んでいるのを見ると、後者の印象が強い。
「お友達は帰ってしまうようですわね。あなたに帰る場所は、あるのですか?」
そっとラクスは訊ねた。しかし鳩は目を閉じたまま微動だにしない。ラクスはまた視線を前に戻し、動かない鳩と一緒に並んで座ったまま、人の波を眺める作業を再開する。
一体どれほどそうして時間を過ごしていただろう。夕闇の紅が深い藍へと変貌を始めた頃、急に周囲の地面が揺れた。ずん、と下から突き上げるようなそれは地震に近いものだ。ラクスが顔を上げ、行き交う人間たちが何事かと足を止めたとき、二度目の、そして確実な揺れが爆音とともに襲ってきた。
空気を揺るがし地響きを伴って、衝撃は一気に街を駆け抜けていく。
キャアアア。特に女たちの悲鳴が上がる。反射的な勢いで立ち上がったラクスの隣から、驚いた白い鳩が慌てて飛んでいってしまう。遥かな彼方で大きな爆発があったのだとすぐに理解できた。素早く視線を巡らせると、暗くなりゆく空の一部に、赤く天へ向かって伸びていく火の手が見えた。そこから上がる黒煙が、空の闇よりも深い黒をところ構わず振りまいている。
「あれは…!」
ラクスが知る限り、その方向の遠方には大きな工業用島がある。ひどく嫌な予感がした。早くに皆と合流して向かうべきだと、彼女が持つ天性の指揮能力が告げている。
しかしそのとき、ラクスの脳幹を強烈な信号が打った。周囲の人間たちの動揺の声も、信じられないものを見た悲鳴も、一切が彼女の五感から切り離されて、その感覚だけが異様に浮き立つ。
「…キラ?」 ラクスはそこにいない人物の名を呼んだ。
人間で言えば第六感とも虫の知らせともなるのだろうが、むしろ比較にならないほど強力なそれは、ある種の昆虫類が持っている危機察知能力と称せたかもしれない。同類の、仲間の危険を知らせるその信号は、今まさに彼女らの聖域たるキラに、何者かが汚れた手を伸ばしている警告に等しかった。
どくん、どくん、と、彼女の心臓がこれまでにない鼓動を始めていた。魔の力を帯びた血液が勢いよく全身へと循環される。指先、脳の片隅、どこにも余すところなく力が溢れてくる。
キラをあそこへ行かせてはいけない──。ただの直感と呼ぶには確信を帯びすぎた意識だった。
スケート着用時のキラのトップスピードには誰も追いつくことができないし、まして連れて行ってもらおうにも、そのスピードに誰かの肉体の反射能力がついていけるはずもない。よって、真っ先にその現場に到着したのはキラだった。それまで快速急行、あるいは特急列車にも並んで走行できようかという速度で走っていた彼の足がピタリと止まる。
高くそびえ立つ工業地域用のフェンスの上にブレードのローラーを引っかけて着地したキラは、その向こうで轟々とあがる炎の音に耳を澄ます。
彼は目を閉じて、右手をすっと地面と平行に掲げた。
「ここで暴れてはいけないよ。鎮まって」 キラは子供をあやすように言った。
空気がピンと張った。一本の糸が張り詰めたような、緊張感とも違う何かが、キラの言葉によって目覚める。フェンスの内側で猛り狂っていた無数の火の手が瞬く間に収まって消えていった。
炎たちが鎮まると、そのあとには黒い煙が何本も立って、建物の中や地面に倒れ伏していた人間たちが姿を見せた。なんだかよく判らないが火災は治まった──圧倒的に男が多くを占めるその集団が、災害発生によって交通のなくなった臨海線道路へと走り出て行く。
島全体の面積を考えれば、脱出した人間はあまりにも少ない。しかしそれでも犠牲は少ない方がいい。いや、むしろそんなものは居ない方がいい。キラは避難していく集団と入れ違うようにして敷地内へと飛び込んでいった。
思った以上に被害が大きい。コンクリートの建物は爆発によって吹き飛ばされてガラス窓など見る影もなく、倉庫と思しき建物の周辺では恐らく十数トンという重量を誇るだろうトラックが見事にひっくり返って、頭上を走っている首都高速に至っては、群馬のそれを彷彿とさせる惨状をさらしていた。
新宿にあるはずの、彼らが宿泊するホテルにも振動と衝撃波が襲いきたくらいだ。恐らくはガスタンククラスの代物がいくつもまとめて爆発を起こしている。島全体の可燃物にまで誘爆しなかったのは何よりの救いだが、もしそんなことになっていたら、間違いなくこの島は取り返しのつかない事態になっていただろう。
キラは軽やかに建物の残骸や火種のくすぶる一帯を跳び越しながら、そこをすぐに見つけてしまった。それを目にした時、キラはことさら『あれ』が持つ悪意のようなものを強く感じた。
ひとつだけ、やたらときれいな建物があった。爆風の被害も衝撃波の被害も何もない、災害の瞬間、そこだけが切り離された別次元にあったかのように傷ひとつない大きな工業倉庫があった。窓も、詰まれたコンテナやダンボールの荷物も、駐車用の広場に置かれたトラックやリフトまでも、原型を留めたままそこにある。
こんなものは普通の人間が見たって不審がるに決まっている。キラが呆れ半分に目を細めたそのとき。
「お早いご到着だな、キラ君」
男の声がキラの耳に届いた。いつからそこにいたのか知らない。セルをはめたように突然、その男の姿は視界に入ってきた。
そんなバカな。見る間にキラの目は大きく見開かれ、言葉を失う。駐車広場はゆうに貨物トレーラーを十台以上も停めることができる。むしろコンテナや荷物のパレットを退かせばそれ以上のスペースを確保できるだろう。そんな広場の中心に、白い影がぽつんと立っていた。
「君ならば真っ先に駆けつけてくるだろうと思っていたよ。私は君を歓迎する」
「どうして…あなたが…」 キラは呻いた。
今まさにキラへ向かって両腕を広げ、口元には優しい微笑みさえ浮かべて立っているその影の人物は、本来から弱い方面にあるキラの精神を打ちのめすには十分──むしろ打ちのめして余る衝撃を帯びていた。
ラウ・ル・クルーゼ。キラがその手で命を絶った人物。キラとも、そして世界とも相容れることのできなかった果て、絶たれるべくして絶たれた人物そのひとが、ここにいた。
「来るがいい…キラ君」 男は右手をキラへ向かって差し出した。「私が君に教えてやろう。私はその為にここへ来たのだ──」
「それも…『あなた』がとれる姿のひとつだと言うんですか」 誘いの声を無視して、そして彼の言葉が終わるのも待たず、キラは拳を握り締めて強く放った。「何故そんなことをして、僕らの…皆の心を傷つけようとするんです!」
「それは愚問だな」
「なんだって…?」
「キラ君。君に私の姿はどう見えている」
「……え…?」 キラは当惑した。
どう見えるとは。目の前に見えているクルーゼというヒトの姿、それ以外の何者でもないそれを、今更どのように語れと言うのか。そしてこの男は、それを他者に訊ねようというのか。まるで自分で自分の姿を把握していないかのように。
「何を、言ってるんですか…」
「…私に判るのは、そのエネルギー体が発しているパワーだけなのだよ」 事も無げに彼は言った。「だから私は、君の姿はもちろん、私自身が今、どのような姿をしているのかを知らない。私は今、どんな姿で、どんな声で、どんな言葉で、君に接しているのかね?」
五感がない。言ってしまえばそういうことだった。
目も見えない、耳も聞こえない、口も利けない。ただ漠然『「姿』があり、意思こそ『姿』が本来持っている言葉や行動としてあらわれるにしても、そういうことになる。今、二人の間で行なわれている『会話』さえも、彼はキラの声を聞いているのではなく、その『意思』を見ている、という表現が妥当になる。
キラは改めて言葉をなくし、眼前に立つその男へと視線を投げた。白い服、長めの金の髪。記憶が正しければ、目元を覆っている仮面の下は透き通るようなブルーの瞳だ。声は、時折こそ絡みつくような闇を帯びるけれど、強い意志をはっきりと持って凛として、言葉は人の上に立つ者、人を束ねる者のそれだった。
今、彼に自分がどのように見えているのか。キラの心に強い興味がわいた。ほんの少しの間だけ目を閉じて、ほんの少しだけ同調すればすぐに判ることだった。己の視界に彼の視界を映してしまうことなど、キラからすれば造作もない話だった。
「キラ君」 長すぎる沈黙を置いて、彼は再び口を開いた。「君の返答を聞きたい」
「…返答…?」 キラは訝しげに眉を寄せる。
「私と共に来てほしい」
何の前触れも予告もなくその言葉が放たれた。キラの目つきが険しさを増す。
渋谷、群馬でのあのバカ騒ぎに足して、管制塔での悪ふざけのあとでこのセリフだ。しかもこの言動を見る限り、彼はそれら自らが起こした事件の数々を少しも気にかけていない。罪悪感や贖罪という言葉や感情が、すでに別次元のシロモノであるような言動だった。
これで彼を不審がらなければ、それこそキラの頭の方がどうかしていると言えるだろう。
当たり前のことだが、キラの返答は決まりきっていた。
「あなたこそ、僕らと一緒に来て下さい。あなたからは聞きたいことがたくさんあるんです」
「…私の要求と君の要求には、そう大きな違いはないように思えるが?」
「ありますよ!」 キラは思わず大きな声を上げた。
キラが彼の元へ行くことと、キラが彼を連れて戻ることはまったく大違いだ。後者の道を選ぶことができるのならここで戦うことも回避できるし、この彼と友好関係を持つことも可能だろう。そしてキラたちの念願である力の秘密を解明し、その抹消方法を知ることに、飛躍的な一歩を踏み出せるかもしれなかった。
キラはそれに賭けていた。
己に力があるせいで、こういった『彼』のようなヒトならざる者が突発的、偶発的に出現し、あるいはカガリのように直接の影響を受けて突然変異的な異能者まで誕生してしまうのだ。もうそんな者たちを見るのは嫌だった。己の力が消えることで、そういった者たちの誕生もまた止まり、彼らの力もまた抹消できるようになるかもしれないのなら、それは願ってもないことだ。
「そうか」 彼は小さく息を吐いたようだった。「それでは仕方がないな」
キラの気が張り詰めた。今の言葉から予測できるあらゆる事態に備える為に。
「──行け!」
彼が号令を放つと、トラック、荷物、建物の陰、あらゆる場所から一斉に『影』が飛びかかってきた。
頭と腹にそれぞれ口を持つ巨大な黒い犬、隆起した背骨からもう一対の腕を生やした六本足の黒い猫、幾枚もの虫の羽根を与えられた、キラほどの身の丈を持つ黒いネズミ。それこそ数えようとすれば命と引き換えになってしまうだろう数の、『影』の軍隊だった。
ガァァァァァ──ッ。咆哮を上げた影どもが、身構えるキラ目掛けて爪や牙を剥いた。
「…いくら『影』を集めたって、無駄ですよ」 キラの瞳を、おろしたてのカミソリが持つそれに近い輝きが彩る。
たんっ。キラはダンスを始めるように、軽く一歩目のステップを踏んだ。直後、身を翻したキラの背があった場所で『影』の腕が勢いよく空振る。
た、たん。キラの両足の爪先が地を打って高く跳躍すると、その胴体を狙ったはずの犬の、必殺を期した一撃が宙を砕く。
たん、たっ、たんっ。着地の瞬間を狙った猫が飛びかかってさえ、キラは低い跳躍を利用した宙返りでやり過ごし、その先で上空から舞い降りてきた黒い翼もアクセルジャンプで華麗とも言える回避を見せる。
「…ほう」 立ち尽くしたまま様子をただ見ている男の『目』に映っているのは、果たして何の痕跡であったのか。
最後の着地をした獲物へと、再度『影』の一斉攻撃が行なわれた。しかしキラは一片の焦りも動揺も見せることなく、己の両腕を地と水平に持ち上げて目を閉じる。
「──未だ輝く陽の光に封ぜられし汝らよ。我が声を聞け!」
通常とはかけ離れた使い方をされたキラの言葉に応えるように、ぽ、ぽっ、と、周囲の地面に赤い光がともった。ダイオードのそれに似た頼りない光だったが、ある確実なポイントをもってそれらはキラを囲んでいる。
キラの上方より襲い来ていたはずの『影』どもは、その赤い輝きを見るなり、畏怖と嫌悪の声を上げて身悶えた。
「聞こゆれば、いざ従え闇ども。汝らが王たる我が命令に!」
赤い点と点の間が同じ赤い光によって結ばれ、六つの頂点が曲線によって結ばれて、六芒星の魔法陣と呼べるものが出現する。
今度こそ『影』どもが上げた声は断末魔の絶叫だった。凄まじい重力にさらされたように、彼らはドタドタと重い音を立てて地面に落ち、見ているうちにアスファルトの中へと肉体を沈められていく。ある者は足から、ある者は腕から、またある者は首から、魔法陣の下にある空間へと引きずり込む力に抗えずバタバタもがいていた。
「…素晴らしい」
やがてすべての影が地の底へと姿を消すと、一部始終をすべて見ていた男が感嘆の言葉をもらした。
「わざわざ見せてくれてありがとう、キラ君。やはり君の力は素晴らしいものだ」
「わかっているなら、もう抵抗しないで下さい。僕と一緒に来てくれますね?」
す、と手を差し出したのは、今度はキラの方だった。目つきは依然として鋭いまま、男が下手な動きを見せれば、牽制の意味も込めて先ほどのものと同等以上のプレッシャーを持った攻撃をするつもりなのが見て取れる。
イザークに言われるように、『影』ごときの相手ならキラは一歩たりとも動くことなく、ただ強く気を放つだけで肉体破裂くらいは簡単に引き起こすことができる。空気を入れ過ぎた風船が割れ飛ぶのと同じく、自分の気を際限なく肉体に送り込んでやるだけでいい。もちろんキラの莫大な力がその程度のことに、そして何十体を相手にそうしようと、衰えたり消耗したりする危惧などまったくないのだが、今しがたそうしなかったのは、キラが目前のこの男に己の力を見せ付ける為だ。
動物が己の体能力を見せ付けて、もっとも優れたものが群の頂点に立つのと同じことと言えた。ただ違うのは相手が動物などではなく、『闇』という名の高次元生物、という点なのだが。
クク、と男は笑った。ククククク、と続けざまに肩を震わせて笑う。
「…?」 得体の知れぬ感情を抱いているであろう相手に、キラは知らずと一歩たじろぐ。
「もう遅いのだよキラ君」
高々と宣言をするように男は笑っていた。そこには圧倒的とも言えたはずの、キラの力への畏怖観念など欠片も見受けられない。
「間もなく次の爆発が起こる。今度こそ、ここには何も残るまい。この中に残っている、大勢の人間の命もな!」
「なん…っ!」 キラは絶句し、男の背後に立っている大きな倉庫を見上げた。
二階、三階に相当する場所にあるだろう窓の中に見えるのは、不安そうに外の様子を伺っている、作業着姿の男や女の姿。キラは自分の頭を直にぶん殴られたような衝撃を受けた。むしろ今この場の情景を悪い夢の一言で済ませてしまいたくなった。
「さぁ、君はこれからありったけの力を使って、次の爆発からここの人間どもを守らねばならない。逃がしていては間に合わんぞ!」
すう、と男の足が地を離れた。
「待てっ! 爆発を止める方法をっ!」
「そんなものはないさ! 君が守る以外に、小さく脆い人間どもの命など救う方法はな!」
ズンッ、と大きな地震が来た。足元のバランスが大きく崩れ、転倒しかけた身体をキラは宙へ浮かせる。
「来るぞ、死の衝撃が!」 男が嬉々として両腕を広げた。
このまま眼下の倉庫を見捨ててあの男を追って戦うか。無理と判っていて倉庫全体に広範囲防護結界を張るか。
──キラに選択の余地はなかった。この災害のすべては、キラと相見えたいがためにあの男が起こしたものなのだ。言うなれば自分のせいなのだ。自分のために大勢の人間が何のいわれもないまま殺されるなど、到底、彼に耐えられるものではない。
眩い光が彼方から視界に飛び込んでくる。一瞬後に鼓膜をつんざく爆音、そしてすべてを薙ぎ払う衝撃波が炎をまとって飛来する。キラは己の身も構わず、両腕を眼下の敷地へと突き出し、命令の言葉を放つ間も惜しんで、掌に収束させたありったけのエネルギーを放射した。
キラの掌を中心とした半円状のドームが敷地を包む。
そして、直後。
「うわあああぁっ!」 悲鳴が爆風の中に飲み込まれる。
己の背を焼く強烈な激痛とともに、キラの意識はプツリと途切れた。
NEXT..... (2004/11/29)