GET LIMIT 29.宣誓
まるでそれが使命であるように、巨大幹線道路は大量の車両を循環させ続けている。
「昨日のうちにいろいろ知りすぎて、頭がおかしくなりそうだったけど…でも、それでも考えてみたんだ」
キラはアスランの前を歩きながら言った。アスランはキラの後ろを歩きながらそれを聞いていた。
道路沿いの歩道は、いったいどこからこんなにわいたのかと思わせるほど人間が溢れ、歩き回っている。香水の匂いをぷんぷんさせたスーツ姿の女、背広を着込んだくわえ煙草の男、真昼間だというのに学生服を着て、仲間たちと連れ添って歩いている少年や少女──見回せばそれこそきりがない。
何だか人類博物館にでも来てしまったような心境に陥ってしまう。
「僕から分離した闇は、更にたくさんの個体に分かれてあちこちを彷徨ってる。動物や人間…新しい宿主を探して」
アスランはその声を聞きながら、たったいま自分の横を通っていった女に視線を流した。
限りなくゴールドに近いブラウンの長い髪を持つその女は、いらいらしながら携帯電話に向かって怒鳴っていた。周囲の人間の中で、彼女に注目している者はそれほどいない。車の騒音、街の雑踏そのものにまぎれて、注目されるほど声が届いていないせいだ。
もしこの場で、闇が彼女に憑依して異変が起こっても、彼女が断末魔に上げるだろう小さな悲鳴は、すぐかき消されてしまうに違いない。誰も気付かない、誰も知らない、誰の目に触れることなく、人間は容易に命を落としていく。
「僕たちが初めて『こっち』に渡ってきたばかりの頃、ここに『影』はいなかったよね」
足を早めたアスランはキラに並び、キラはそう問いかけながら、やっと隣に立ったアスランに目をやる。
「いなかった」 アスランは頷いて答えた。「だから俺たちは、ここでなら何の邪魔もなく、おまえの能力研究ができると思って、定住を始めたんだ」
「うん…」
「だが数ヶ月もしないうちに、こっちにも『影』が現れるようになった。はじめこそ、『向こう』からおまえを追ってきたんだと思っていた」
「……うん」
「同時におまえの力も、『こちら』へ渡った頃を境に急速に強くなった。それも、俺たちは次元超越のショック要因による増強効果か何かだと思っていた」
「でも」 キラは顔を伏せた。「本当のことが、やっとわかった」
盛大なクラクションが車道を通り過ぎていった。同時にワッと笑い声が起こる。二人が視線を投げてみると、少女の一団が車道をバタバタと横断していた。
車が来なくなった一瞬のスキを狙って走り出し、しかし想定以上のスピードで近づいてきた車に警笛を鳴らされて、何やってんのよー、と仲間をばかにして笑っていた。もしも本当に車に跳ねられて誰かが死んだとしても、彼女たちは笑い話にするのだろうか。
こないだここで、渡るのミスって死んだやつがいてさぁ──。
「…ここは、僕たちの世界以上にたくさんの、そして大きな悪意が満ちている」
キラは苦しそうに言った。
「僕の力が強くなったのは、そのせい。闇の力は負の力だ。この世界の人間が発する負の感情、負のエネルギーがすべて僕の力になっていく」
「…向こうにいた頃は注視するほどでもなかったシンの力が、こちらに渡って急激に強まったのも、そのせいなのか?」
「多分、それに加えて僕が傍にいたせいだ。悪意は、個体ではとても弱くて小さくても、寄り集まると開き直って急に大きく強くなるから」
キラは立ち止まって空を見た。
後ろに続いていた人間たちは、この騒がしい歩道の中でいきなり立ち止まったいち通行人を疎むような目をして横を通っていく。アスランはそんな目を気にしながら、同じように空を見た。鳥の一羽も飛んでいない。飛んでいるものといえば、鉄でできた巨大な鳥たちだ。
「もしも…だよ」 キラは言った。「もしも、僕たちがこっちに渡ってきて過ごした数年間、ずっと何にも取り憑かずに、分裂もしないで、そのままで過ごした闇の個体が存在したら?」
「…え?」 アスランは戸惑った。
「こんな悪意と死が当たり前に溢れた世界で、何年も過ごし続けた闇が、一個でもいたとしたら? そのエネルギーをずっと蓄え続けた闇がいたとしたら…?」
「キラ、おまえ、まさか…」
「きっと、僕に並べる力くらいは、結構早い段階で身に付くと思うんだ。そしてこの世界の、もっとも暗い属性──『死』の力を、きっと身につける。きっと自我も芽生える」
キラは歩道のずっと先に視線を投げた。その先では警官が鳴らしていると思われるホイッスルの音がひたすら響き続けている。青いビニールのシートが鉄の骨組みをぐるりと取り囲み、交差点のど真ん中に、さながら小さなビル建設を思わせる風景が作り出されていた。
「もうひとりの僕…って言ってもよかったんじゃないかな。──『あれ』ってさ」
アスランは押し黙った。
『あれ』の話になってしまうと、今のキラの言葉に納得するため、思い出すべき言動を回想するのも嫌だった。暗い感情を次々に意識させられる。考えたくもない自分の中に秘めた悪意を知らされる。
暴力の快感、暴行の衝動、撒き散らされる死の喜び──たまらなく気分が悪くなる。
「『あれ』はきっと、そうして生まれた」 キラは言った。「他に説明する方法がないし…肉体の制限がない分、どこまでも増殖できたんだ」
「…そういえば『あれ』は、自分には肉体がないことを特に強調してたな」
「『あれ』くらいの悪意の塊になってしまうと、憑依した相手そのものを自分の力で壊してしまうんだよ。肉体、精神の崩壊とか」
「…なぁ、壊れない肉体なんてあると思うか?」
アスランはつい聞いてしまった。
『あれ』くらいの邪悪な波動を一身に受け止めても、壊れてしまわない強固な肉体というものが存在するなら、それこそ手の打ちようがなくなっていたところだ。考えるのもばかばかしい。『あれ』が自在に乗りこなせる肉体などありはしないに決まっている。
『あれ』は、いつか自分が肉体を得るような口ぶりで話していたが、本人が滅びてしまった今となっては、所詮そんなものは夢物語でしかなかったのだ。
「…あるかもしれない」
アスランが脳内で結論を下そうとしたとき、キラの言葉が何よりも強力な待ったをかける。アスランは信じられない思いで、信じられないことを言った親友を見つめた。
「『あれ』と波長が合致すれば、あるいは」 キラは真剣な顔をして言った。「これ以上ないってくらいマイナスの方向に心が傾けば、『あれ』と同じ波長を持つことになる。肉体と精神がシンクロさえしていれば、『あれ』に入られても壊れることはないかもしれない」
「マイナス、って、具体的にはどんなだよ?」
「……いろいろあるよ。殺意、憎悪、嫉妬、不平…ほんとうに、たくさん」
「そんなもの、こっちの人間でなくたって誰だって持ってる」 アスランはむっとした。「変なこと言うなよ。どんなにそっちの方向に傾いたって、『あれ』と完全に一致できるほどドン底の感情なんかあるもんか」
「うん…。そう、だよね」
キラはビニールシートの塔を見た。
「滅んだ奴の話は止めよう。正体も、生まれた理由も大体の推測はついたんだ、もう考えたって仕方ないだろ」 アスランは言って、シートの塔に背を向けた。「そんなことよりも今は、シンのことと、おまえの力のことじゃないか」
「それと」 キラは言った。「もうひとつ」
「ん?」
その場を立ち去ろうとしたアスランの足が止まる。
「昨日のこと」
キラが言いにくそうに口にした言葉に、アスランはあっと思った。気にならないといえば全くの嘘だったが、キラが話したくないことなら、そして話しても仕方の無いことであれば聞くまいと思っていた矢先だった。
「場所、変えてもいい? いろいろあるから…ゆっくり、話がしたいんだ」
言ってキラが駆け寄った横断歩道の信号が、待ってましたとばかりに青に変わった。
「お待たせしました。ストロベリーソースパフェと、アメリカンコーヒーです」
客がいい男だと、ウェイトレスの対応も自然と愛想がよくなる。この喫茶店名物の、かわいらしいフリルのエプロンを身に着けた若い女が、いそいそと嬉しそうに注文の品をキラとアスランのもとへ運んできた。
キラが軽い会釈をすると女はにっこり満足そうに笑って、トレイに乗せていたパフェの大きなグラスと、香ばしい匂いのするカップセットをテーブルの上へと並べて置いた。
「ごゆっくりどうぞぉー」
普段は絶対にしないだろうに、ぺこんと頭まで下げて、女は浮き足立ってカウンターへと帰っていく。帰還した特攻兵を仲間たちが輪になって出迎えて、カウンターの中で若い者同士のお喋りが始まった。
どっちがカワイイとか、どっちが好みだとか、他愛も無い個人趣味の会話だ。
アスランが、意識せず耳に入ってくるそんな会話に溜息を吐いていると、すっ、と目の前にパフェのグラスが差し出された。正面に目を戻すと、その手の主であるキラがちょっと苦笑いを浮かべている。
同じように苦笑いを返しながら、アスランも、自分の前に置かれていたコーヒーのセットをキラの前へと押しやった。
喫茶店に入ると、まるで儀式のように繰り返される二人の恒例行事だった。店員は、アスランが注文したパフェやケーキセットをキラの前に、キラが注文したコーヒーをアスランの前に、必ずと言っていいほど間違って配ってしまう。ひどい時には注文を聞いた本人さえ間違えることがあるくらいだ。
それだけ二人が、自分の外見からかけ離れた注文をしてしまっているのだ。
味覚の好みなんて、必ずしも外見に沿ったものではない。ないのだが、アスランがカフェ・オ・レ以外のコーヒーをほとんど飲めないことや、キラが甘いものを食べられないことを知ると、大抵の人間は意外そうな顔をするのだった。
今どきは顔に傷があってサングラスを常備したような大男が、喫茶店でパフェを食べる時代だというのに。
「原発で『あれ』と戦ったとき、いろんな話をしたんだ」
キラは、並べて置かれたミルクのビンや砂糖のポットにはひとつも手をつけず、そのままカップを持ち上げて言った。
「それで……君のことも、いろいろ聞いたんだ」
細長いスプーンで、赤く艶やかなソースのかかった生クリームをすくうアスランの手が止まった。クリームの中にスプーンを刺したまま、まるで、親に押入れの奥へ隠してあった年齢制限ゲームソフトでも発見された少年のような顔で、コーヒーに口を付けるキラを見る。
キラはコクンと香ばしいコーヒーを飲み下すと、溜息を吐いた。その仕草が妙にサマになっている。
「『あれ』は本当に、悪い方向でしかものを語らなかったから…ひょっとしたら過大表現もあったかもしれないけど…」
アスランは、キラが言うイロイロという言葉が引っかかってたまらなかった。聞けるものなら聞いてみたい。アレのことかコレのことか、はたまた違うのならドレのことなのか。『あれ』が語ったイロイロの中に当てはまりそうな悪意に覚えがあり過ぎて、しかし墓穴を掘るのが怖くて何も口を開けなかった。
何とも気まずい気分で、アスランは大好物のはずの生クリームをかき回しながら、キラの次の言葉を待った。
「それでちょっと…君のことが、怖くなってた」
キラはカップの中に揺れている、紅茶のそれに似た色の液体を見つめながら言った。
どうやら『あれ』から何を聞いて、どうして怖くなっていたのか、そのあたりのことを話してしまうつもりはないらしい。
気にはなる。なるが、それを聞いてしまう勇気は、逆立ちしても転がり出てきそうになかった。
「それからデュランダルさんにマイノリティのことを聞いて…すごく混乱したんだ。みんな、僕の中に帰りたいって思ってる…みんな、僕を自分の中に帰らせたいと思ってしまってる…こんな力があるから、みんなに、そんなふうに思わせてしまうんだって」
キラの瞳が不意に潤んだ。本当ならここで肩のひとつも叩いてやるところだが、大きなテーブルと、店員たちの興味の視線とに邪魔をされて、ただ何も答えられず相手を見ていることしかできなかった。
「この力が、僕の存在がみんなを狂わせるんだとしたら、もういっそいなくなりたかった」
「キラ…」
「でも、ね……やっぱり…寂しくなって」 キラは恥ずかしそうに自嘲して笑った。「死ぬにしても、消えるにしても、ひとりきりになっちゃうのが怖くなって、誰もいない場所でたった一人になって、自分を封印し続ける勇気なんて、僕にはきっとないんだって思ったら、余計に悲しくなって…」
キラの言葉を聞きながら、アスランはその通りの情景を考えた。
闇を持っている限り、闇の宿主である限り、キラは頭でも吹っ飛ばされない限りほぼ死ぬことはない。これだけなら普通の人間にも可能性の無いことではないのだが、腕や足くらいなら失われても再生してしまうのだから、これはもう人間の領域ではない。そんな彼が、誰にも接せず、何にも触れないでいようと決めたとき、その意思をまっとうする方法といえば。
自己の封印。自殺というもっともポピュラーな手段を除けば、他に無い。
封印とは、強力な、そして超長時期に渡って持続し続ける半永久的な結界を異空間に作成し、そこに対象を閉じ込めてしまうことだ。キラが意識も自我も持たない、本当のただの闇の化け物に過ぎなければ、誰もが間違いなくその道を選んでいたはずだ。これ以上の『影』やマイノリティの誕生を食い止めるために、『あれ』のような超生物の出現を阻止するために。
キラは昨夜、自らその結論に達しようとしていたのだ。
しかし弱過ぎる自分の精神力を考えると、長い孤独の果てに今の理性が全崩壊して、いつか自分が本物の化け物に変貌してしまうのではないかと思い留まってしまった。しかし今の状況を少しでも改善の方向へ導くには──そんな巨大なジレンマに、今にも押し潰されそうになっていたのだ。
「もう、君の傍にいたくなかったんだ」 キラはやっとその一言を口にした。「僕が君を狂わせてる。僕が傍に居たら、僕の傍に居たら、君まで人間の倫から外れてしまう…僕の傍に、居ないでほしかったんだ」
『ひとりにして』──。
あのときのあの言葉に、そんな意味があったなんて。だがアスランは、その衝撃告白というやつを、意外にもすんなりと受け止められていた。
想定の範囲内だったといえば聞こえは悪いが、その通りだった。マイノリティと自分との関係を知ったキラが次に考えることがあるとすれば、それは一番身近にいるマイノリティ──アスランやイザークという、自分がもっとも信頼を寄せる仲間たちのことだ。
仲間たちの身に重大な異変が起こるくらいなら、自分が犠牲にでも何にでもなる──キラはそういうやつだから。
「でもさ…」 キラは言った。「そんなふうに、一人でいろんなこと考えてぐちゃぐちゃになってるときに、また一人になったって、何かいい考えとか、浮かぶわけないじゃん」
「…ああ」
永遠に独りになろう、なんて考えている時、傍に来た誰かが離れていったら、計画の縮小図がそこに完成する。
最後の一人が立ち去って、たった独り、閉ざされた暗い場所で膝を抱えて──。
「嬉しかったんだ…」 俯いたキラの閉じた瞳から、ぽつっ、と滴が落ちた。「君の言葉が、嬉しかったんだ」
『耐えられもしないクセに、独りになろうなんて考えるな』 結果的に、そういう意味になった。立ち去ろうとした最後の一人が戻ってきて、これまで聞いたどんな小言よりも優しい言葉で、彼はキラを叱り付けてくれたのだ。
キラはそのとき、少しでもアスランを怖いと思っていた自分が恥ずかしくなった。
「君がいてくれてよかった」 キラは俯いた頭を更に下げた。「ありがとう…」
「よせよ」 アスランは少し焦った。「俺は別に、あのとき妙な意味があってあんなことを言ったんじゃないし…そもそも、礼を言われるようなことでもない。おまえがまたバカなことをやってるなって、そう思ったからバカって言っただけで」
そこまで言ってアスランはしまったと思った。いくら慰めるためとはいえ、バカバカと言い過ぎる。これでは慰めるどころか逆にイジメだ。どんなに冷徹な言葉も、時と場所と場合によっては暖かな言葉に変貌することはあるし、アスランがキラをバカというのも、ある意味では的確すぎるほどの表現だ。
キラのことをよく知っているから出る言葉であって、アスランの性格からして、彼はよくも知らない相手のことを『あいつはバカだからな』とか言ったりはしない。
が、それがうまく説明できない。
「…ごめん」 アスランはあっさり項垂れた。
すると逆にキラが顔を上げた。怒り出されてしまうのかと思っておずおずと視線上げてみると、キラはまだすこし濡れた瞳をしながらも、小さく笑みを浮かべていた。
あたふたしたアスランの様子がちょっと可笑しくなって笑ってしまった──深い傷の鈍い痛みから、何とか立ち直ろうとするその微笑みはなんとも儚かった。
「…キラ」 アスランも思い切って口を開いた。「マイノリティの話を聞いて、その感情の特性はもう理解してると思うが」
「うん?」
「俺がキラに向けてる気持ちは、そんな、マイノリティの特性だとか、超能力者の力関係だとか、そういう……機械的なものじゃないんだ」
──キラは答えない。
「昔はそうだったかもしれない。小さい頃は、おまえの兄貴分であることが優越だったりもしたから」
「……僕より五ヶ月も年下のクセに」 キラが口を尖らせる。
「うるさい」 アスランはぴしゃりと言った。「でも今は違う。いろんなことを知って、いろんな本当のことを教えられて…それで俺は、そのどれにも当てはまらない、俺だけの……マイノリティなんて枠にはまらない、本当の『俺』が、おまえに向けてる気持ちがあることに……気が、ついたんだ」
アスランは一生懸命いった。だがどうも、言ってることは立派だが迫力がまったくない。
「キラっ」
アスランはテーブルにバン、と手を置くと、何事かと思った周囲の客や店員の視線を受けながら、キラへ向かって身を乗り出した。
「俺が必ず、おまえの力を消す方法を、探し出してみせるからっ」
キラはきょとんとしていた。何を言われたのか判らないというよりも、その表情は、突然感情が爆発したアスランに対して驚いている方が強く見える。
「だからっ…」 アスランは血を吐く思いで言った。「だからそれまで…いや、そのあとも…ずっとっ…!」
思っていることが多すぎて、伝えたいことがたくさんありすぎて、何から言葉にしていいのか判らない。ともすれば、何の関係もない言葉がいきなりぽろりと飛び出してしまいそうだ。
もどかしくて、そして言葉が見つからなくて戸惑う。
もうすこしなのに。あと、ほんのもう少しなのに──!
すっ、と、テーブルの上で突っ張っていたアスランの手に、キラの手が重ねられた。ぎくりとしたアスランが慌てて視線を落として、そしてまたキラを見る。
キラは微笑んでいた。
「永かったね」 彼は言った。「すごく、永かった」
「キラ…」
「僕も、君に言わなくちゃ」
さっきのアスランが立ち上がった衝撃で、コーヒーに波紋が立っている。それがゆっくりと消えてなくなっていくまでの間を置いて、キラははっきりと言った。
「ありがとう、アスラン…。僕も君が好きだよ。誰よりも、何よりも。──君が、好きだよ…」
店内の有線放送も、玄関ドアのベルがキンコーンと鳴った音も、客のおっちゃんが盛大にぶちかましたクシャミの轟音も、何も聞こえなくなった。
今日ほど嬉しくて涙が出た日を、アスランは知らなかった。
NEXT..... (2005/04/24)