FATAL ASK  28.怪物

 ミネルバでステラの逃亡が発生したちょうど同じ頃、オーブにはディアッカが到着していた。

 まさかオーブ官邸に航空機を貸せなどと申し出るわけにもいかず──おそらくカガリなら快く用意してくれたであろうが──モルゲンレーテで未だ活躍中のスパイ様方に手を借りて、あっけないほど簡単に入国できたのは手筈通り。開戦しようとも、ナチュラル・コーディネイターを問わずすべての人間に開かれた中立国で在らんとするこの国の構え方は、ある種、宗教じみた強靭さを感じる。

「でぇ?」

 と、ディアッカの真正面に座っているミリアリア・ハウが、死ぬほど不機嫌な声で言った。

「なんであたしが今日オーブに来てることを知ってるのよ、あんた。ストーカーで訴えるわよ」

「勘弁してくんない?」 引きつり笑いでディアッカは言った。「ホラ、あれだよ。代表誘拐事件のアレで、俺、あんたの『思念波長』知ってたからさ? 探してみたらちょうどここに来てるのが判ったから…」

「それをストーカーって言うんだって言ってんの」

 呆れきった調子で悪態をつく彼女だが、ここで彼に会えたことで、実は少しホッとしていた。

 彼女が戦場カメラマンとして追っている内戦や紛争といったものを含めれば、わざわざ『開戦』などしなくてもナチュラルとコーディネイターの争いは進行形で続いていると言っていい。プラントで先日行なわれた記念式典には仕事仲間が何人か向かっていたので彼女自身は顔を出さなかったのだが、彼らから何かと不穏な話を聞いており、ずっと気にかけていたのだ。

 ラクスが襲撃されただの、大勢の民間人が殺されただの、挙句の果てにはマイウスでの機体暴走事故と、会見での異変……『犯人』の正体は不明、『原因』も調査中、その上これらがすべて連合に与する人間の手によるものであったなら、プラントの総意としてデュランダルが信用を失って解任されてしまうのも解らないではない話。もしチャンスがあるのなら、関係者から直接話を聞きたいと思っていたところであった。

 各地での競り合いが激化したこともあって単身での行動は危険と判断した彼女は、開戦宣言からさほど間を置かず、こうしてオーブへ避難してきた。さすがに軍事面での機密性が高まってしまい、モルゲンレーテも外部との接触に対して厳重になりつつある現在、軍部にいるキラは無理でもせめてマリューに会うチャンスはないものかと窺っていた矢先、彼女のモバイル端末が鳴った。

 それがディアッカからの連絡であった。流行りのオープンテラスがある洒落たカフェで、こうして二人は会うことになったというわけだ。

「──なんて、ね」 ミリアリアは自分の悪態を自ら訂正し、冷たい水の入ったグラスに軽く口を付けた。「とりあえず元気そうでホント何より。っていうか、開戦したばっかなのにこんなのんびりしてていいの?」

「まあそこはさ、ウチの隊長殿の機転っていうか?」 ディアッカは肩を済めて言った。「はっきり言って休暇と言う名の仕事なワケだけど、こうしてあんたの無事も確かめられたから良かったと思うよ」

「まさかと思うけど、オーブの内情探りに来たとか言わないでしょうね?」

「言わないからそのグラス置いて?」

 今まさに自分に向かって中身をぶちまけられそうなそれから視線を外せず、ディアッカがたじろいだところで、二人のもとへトレイを持った男が歩み寄ってきた。

「はーい、お待ちどうさま」

 その口調が、どうしても客に対するそれではない。というか聞き覚えがあり過ぎる。エッとばかりに顔を上げた二人はそこで、手にしたトレイに山のようにスイーツを携えたキラの姿を目にすることになる。

「サービス品、お持ち致しましたよ。お二人さん」

「キラッ!」

「姫さんっ!」

 呼ぶどころか連絡を取ることもできなかった相手の突然の来訪に、二人は思わず立ち上がってしまった。

「久しぶりだね。元気そうで、ほんとによかった」

 久方ぶりの友人との再会なのだ、さすがにこのところは憂い顔の多かったキラも嬉しそうな笑みで応える。そしておまえは熟練のフロアスタッフかというくらい、彼らのテーブルに手際よくパンケーキにクレープにパフェにアイス乗せのワッフルなどなどの皿を並べてしまうと、不要になったトレイを通りかかったスタッフにサッと返し、自身も同じ席に着いた。

「ごめんね、せっかくの時間を邪魔しちゃって。…でも、二人の……てか、ディアッカがこっちに来たのを感じたから、会っておかなきゃと思って」

「そんなの全然!」 ミリアリアはパタパタと両手を振った。「こんなやつと話して時間無駄にしてるより、キラに会えるほうがよっぽど有意義だから気にしないでよ?」

「ごめん、泣いていい?」 ディアッカが言った。

「トイレでどうぞ」

「相変わらずだね、二人とも…」 さすがにキラも苦笑いだ。しかし、そうのんびりもしていられないと思ったのか、口火を切ったのは彼であった。「──ディアッカ。さっそくで悪いけど、デュランダルさんは今どうしてるの」

「詳細不明」 ディアッカは言った。「でも、ヴェステンフルス隊長は最後まで議長の側近だったことと、今も評議会の直属で身辺警護に従事してるって話だから、知ってる可能性は高そうだぜ」

「ディアッカ、あんたってテレパシー使えるんでしょ?」 ミリアリアが言った。「それで連絡できないの?」

「残念ながら、プラント全体を強力なジャミングが囲んでてね。姫さんですらアクセスできないんだから、俺らみたいなマイノリティは相互通信もできない状況なんだよ」

「じゃあ、今回の開戦も能力者絡みなわけね?」

「残念ながら…ね」 キラは伏し目がちに、申し訳なさそうに言った。「でも、現状フェイスが乗艦してることもあって、ミネルバはほぼ自由行動を認められてる。それを利用して、デュランダルさんが調査する予定だった連合の施設へ、アスランとシンが向かってるところなんだ」

「最高評議会は、デュランダル議長を解任したあと、新たに議長を立ててない」 ディアッカは言った。「議員全員が議長代行って感じで、指導者を置いてない状態だ。正直、評議会がこんなふうになるなんて、いくら他の議員がボンクラだって言ってもフツーじゃ考えられない」

「そうするのがいいって、誰かが操作してるってことね。あのシンって子が、あたしの心を操ったみたいに…」

 例が悪いが、およそ予測される事態はその通りだ。二人はシンの擁護をするでもなく、単にそういう状況だという肯定の意味で頷いた。

「プラントを『支配』しているのは、多分、ファントムペインの黒幕だと思う」 キラは言った。「そのひとが誰で、どんなひとなのか僕には判らない。……でも、デュランダルさんは知ってたはずだ」

「だいたい予想ついたって言ってたもんなァ」 ディアッカが言った。「議長に正体を暴かれる前に、オディール姫を味方につけて先手を打ったってわけだぁな」

「お、オディール姫?」 クリームソーダが鼻に逆流しそうになって、半ば咳き込んだキラが素っ頓狂な声を上げた。「それってもしかして、カ──、『彼』のこと?」

「命名はイザークなんで」 俺は知りません、とばかりにディアッカは顔を逸らした。「姫さんによく似た黒い男、って言ったら、ソレが浮かんだらしいぜ。ただ『黒い男』とか言ってもピンと来ないからさ、まあコードネームだよ」

 確かに連合でもザフトでも、正式名称の判らない敵艦や敵機を指して適当な人名やナンバーを当てはめることはよくあることだ。ここでカナードと『対』を成すことになった自分がオデットだというだけでも薄らくすぐったいのに、カナードが黒鳥オディールとは、よくもそんな配役が頭に浮かぶものだと感心する。

「へ、へえ……」 彼、そんなガラじゃないと思うけどなあ──。たまらず苦笑いが浮かぶ。

 ただ、やはり誰もカナードの『真意』には気付いていない。ファントムペイン戦での妨害と、『黒幕』によるプラント支配にも加担しているとなれば、もはや誰もが彼を敵と信じて疑わないだろう。今更キラが何を言ったところで、アスランですらまともに取り合ってくれないかもしれない。

 理解者の居ない、修羅の道。たったひとりでそこに居る君は、いま──。その姿を思い描き目を閉じるけれど、眼前に広がるのは闇だけだ。彼との同調は起こらない。

「でも、その『黒幕』サンの目的って何なのかしらね?」 ミリアリアが言った。「ファントムペインの親玉ってことは、間違いなくナチュラルで、ブルーコスモスの筆頭みたいなヤツでしょ? 根絶やしにしたいはずのコーディネイターと手を組んで連合と戦争なんて、何をするつもりなのかしら」

 それは、……まだ、わからない。

「最悪プラント全体の総自爆を目論んでるとしても」 ディアッカは言った。「あちらさんの姫さんが最大の難所になるのは間違いないし、最終的には宇宙での総力戦になるのは目に見えてる。となると、こっちの姫さんにも宇宙へ上がってもらう必要は出て来るよな。……アークエンジェル、出航準備できてんの?」

「マリューさんは準備を進めてくれてる」 キラは言った。「ミネルバから、例の施設調査完了の知らせが来れば、現地で合流する予定になって──」

 え──。キラは言葉を切り、ぽかんとしてしまった。ミリアリアとディアッカも、そんな彼の様子を見てどうしたのかとキョトンとしている。数秒の間、彼らはキラの視線を追ってみたりしたけれど、そこには誰も、何もない。

 え、うそ、なんで──? 状況を理解するより早く、信じられない、という思いが先立つ。

「──アスランッ」 つい、キラは大きな声を上げていた。耳元に手を当て、より『通信』としてのイメージを強めながら。「アスラン、アスラン返事をしてっ!」

「え、なに?」 ミリアリアが息をのむ。「どうしたの? 何かあった?」

 その間、ディアッカがもしやとばかりに耳元へ手をやり、意識の集中を試みる。その表情が、まさか、というように固まった。

「アスランの『反応』が途切れた」 ディアッカが言った。「──ミネルバで何かあったのかっ?」

「マリューさん、アークエンジェルを出してくださいっ! ロドニアのラボへ向かいます!」

 キラがそう叫んだはるか後方の席で、虚ろな目をした男が同じ言葉を携帯端末に向けて喋っていた。このカフェは、キラがここへ到着したそのときから、すでに彼の支配領域であった。

「キラッ」 ミリアリアが言った。「乗り掛かったフネよ、あたしも乗せて!」

「俺も行くぜ!」 ディアッカが言った。「もともとあんたらに合流するために来たんだからなっ」

 言葉で応えるより早く、キラはふたりを巻き込んで転移していた。

 高速エレベーターにでも乗った気がした一瞬後、辺りの景色は見慣れたブリッジのそれに変わっている。艦長席のマリュー、操舵席のノイマン、オペレーターのチャンドラ──懐かしいと言わざるを得ない顔ぶれが、ふっと笑みすら浮かべてミリアリアを出迎えた。

「アークエンジェル、出航するぞ!」 バルトフェルドが言った。「席についてくれよ、熟練オペレーターさん!」

「はいっ!」

 返事が早いか、彼女は持っていたバッグをディアッカに押し付け、マリューの背後に、チャンドラと背中合わせになるよう設置されているオペレーター席へヒョイと飛び込んでいく。

「操舵システムは潜航モードへ」 マリューは言った。「出航後、急速潜航。本艦はこれより海中に進路をとり、ボスポラス海峡沿岸にて停泊中の、ミネルバとの合流を目指す! ──オーブ『管制』、応答せよ」

『レーダー、ソナー、その他センサー類を掌握。オーブ管制全システム、僕の制御下に入りました』 キラの声が通信の向こうから聞こえた。姿が見えないと思ったら、ひとりだけ別の場所へ転移していたらしい。『アークエンジェルの艦影は、誰にも捉えさせませんよ!』

「進路よし!」 マリューは──否、艦長ラミアスは一声高く号令を出した。「アークエンジェル、発進!」



 折れて砕けた肋骨が肺にいくつも喰い込んでいる。

 これはもう、長く保たないな──。スティングは痛みを堪えながら、それでも歩きながら、まるで他人事のように自分の死期を悟っていた。

 ステラを追って自身も転移した彼は今、彼女の衝撃波をモロに受けたせいで内出血の激しい内臓を抱えながら、ふらふらとどこかの街を歩いている。ここがどこなのかもう判らなかったけれど、少し重みのある石造りの家が目立つところを見ると、ヨーロッパのどこかではないかと推測できた。

 肺から溢れた血液が身体の空洞に溜まり、腹が重い。失血のせいだろうか、指先の感覚が鈍く、寒かった。彼の視界は薄暗いから判断しづらいが、すでに夜は明けているはずなのに、街は夜更けのように静かだった。

 それもそのはず、通りや物陰には、すでに何人もの人間が倒れ伏していて、誰も、ぴくりとも動かない。生きているかもしれないが、死んでいるかもしれない。気にはなるけれど、それらをいちいち確かめているだけの余裕は無かった。

「ステラ──」

 声を出そうとすると砕けた気道が痛んでたまらない。チカラを使って肺に直接酸素を取り込ませているから肉体はまだ生きているけれど、スティングの自発呼吸そのものは、今や完全に停まっているのだった。

 果たして彼女は、その先に居た。

 街の中心だろうか。小さな石組みの、丸い噴水が設置されている。彼女はそこで、どんよりと曇った、今にも雨が降り出しそうな空を仰いでいた。

 ちらり、と、スティングの視界に白いものが漂う。雪だ。どうりで寒いわけである。それは何も彼の体温が下がっているせいだけではなく、この街が今、冬を迎えているせいだった。

『シン──』

 ステラの声が聞こえた。

 それは肉声ではなく、テレパシーだ。

『……シン……どこ? ステラを…ステラを守るって……』

 もしかしたら、シンに聞こえたかもしれない。子供の泣き声にも等しい、助けを求める非常ベル。自分のような精度の悪い能力者がこんなにも鮮明に受信できるのだ、世界中のマイノリティに届いた可能性がある。デュランダルにも、ハイネにも、カガリにも、アスランにも、……キラにも。

 そして、その嘆きを聞き付けた一人目がもう、彼の背後に立っていた。

 ──ばちん! 伸びた黒い手がスティングの後ろ首にそっと触れたかと思ったら、電気がショートするような大きな音がした。彼は相手を確かめるどころか、その接近にすら気付くことができないまま延髄を焼き切られ、目を閉じることもかなわず倒れ伏す。

 意識が落ちるまで数秒もなかっただろうから、ぼろぼろに傷付いた自分の身体が石畳に打ち付けられる痛みを感じる前に死ねたことだろう。何も思うとも知れない凪いだ表情でそれを見届けたカナードは、今の音で自分の存在に気付いて振り向いていたステラへと歩み寄って行った。

「おまえは何だっ」 ステラが身構えた。

 街中の人間から活力を吸収したにもかかわらず顔色は良くないけれど、得体の知れない相手を前に鋭い警戒の姿勢を見せている。チカラを使ってスキャンしようと思えば、彼女はすぐにでもこの黒い男が、愛しの王子様と『同類』であることを認識できたろうに。

「少なくとも、おまえの敵ではない」 カナードは抑揚なく言った。

 彼女のチカラは、かつてない進化をしようとしていた。

 母体と離れている期間があまりにも長かったために母体ではないものと共存できるよう進化していたけれど、この『三賢者』とてチカラの根源はキラの『闇』だ、自己愛は飛び抜けて強い。宿主の生命の危機に合わせて、自らも消滅する窮地に立たされた『闇』が、延命のために急激に増幅し始めているのだった。

 命の危機を乗り切るためにチカラが自発的な進化を行なったのは、死を間近に控えて初めて、スティングやステラの体調までも遠隔管理できるようになったアウルが最たる好例だったと言えよう。

 彼女もまた、そうなろうとしている。

 もともとステラは魅了にも似た、人の精神を自分の望むように操るチカラを発展させている。ならばその行き着く先で、その精神が放つエネルギーをも自分の手中に引き寄せることだって可能になるのは、少なくともカナードにはすんなりと予測できたことであった。

「邪魔をしに来たのか、おまえもっ! ……うぅっ!」

 まったく話を聞いていなかったステラが、こいつの全身も吹き飛ばしてやるとばかりに攻撃の意思を放とうしたとき、頭を殴りつけるような強烈な頭痛に見舞われてその場に崩れ落ちた。

 チカラによる攻撃を受けたのではない。体調の変化だ。脳のどこかで血管が悪くなっているのかもしれない。

「いたい…っ痛い、痛い……死ぬのは、いや…!」

 泣きながら呻いている彼女の近くで、葉の無い街路樹がミシリと音を立てた。

 カナードがそちらへ目をやると、その幹は見る間に痩せ細り、自重を支えきれないほどに脆くボロボロになって根もと近くからへし折れてしまった。普通の木であればドーンと重い音がしたところだが、それが石畳に転がったときは、ガランゴロンと乾いた軽い音がしたのみだ。

 もはや、彼女の標的は人だけではない。生きているすべての存在を喰らってでも、彼女は生きようとしている。

「──喰らい尽すがいい」 カナードは言った。

 え、と青ざめた顔を上げる少女に、彼は尚も、命令文でも謳うように言った。

「殖えるがいい、おまえが望むままに。生きたいと望むなら、その手段を尽くすがいい。世界は必ずおまえの声を聞き届け、そして答えをくれるだろう」

 足りない──。頭の中でガンガンと反響する自分の声がうるさくて、ステラはウッと苦悶の声をもらして頭を抱えた。こんなんじゃ足りない、生きられない。いやだ、いやだいやだいやだ、死にたくない──。

「守って──」 ステラが呟いた。──否、囁いたというべきだろうか。「お願い…ステラを、ステラを守って…!」

 彼女は知っている。

 この世でもっとも、何よりも彼女が信頼するあの無機質な光を。

 悪いものを、怖いものを蹴散らすために、彼女により大きな力をもたらしてくれる、あの冷たく鋭い光を。

 目の前からカナードが居なくなったことなど、そこに取り残されたもはや誰とも知れない死体のことも、もはや彼女にとってはどうでもよかった。

「守って…!」

 魂の底からの彼女の祈りに応えるように、そこら中に横たわっていたものらが身を起こした。首の座らない者、足がうまく動かない者、瞼を開くこともままならない者──まるでゾンビの行進だ。彼らは己の女神でも崇めるようにステラを取り囲み、やがて近場に居る者同士で身を寄せ合った。

 ぶにょん、と、彼らの頬の肉が融合した。

 続いて誰かの腹の中でブチリと肉の裂ける音が響いてきて、またある者はバキバキと骨が砕けて変形し、鼻孔や眼窩、耳や口といった外界への出口から、どろどろに溶けた肉が溢れて流れ出す。彼らが元は人間であったことを示す唯一の証拠となるだろう服だけを抜け殻のように残して一塊の巨大なスライムのようになり、ステラの脚から身体へと這い上がり、見る間に彼女を繭のように包み込んでいった。

 そして形を成していく。

 ステラが望むものの姿となるために。

 彼女を何よりも勇気づける存在へと昇華するために。

 暗闇に包まれたかに見えたステラの眼前で、パッパッといくつものスイッチライトが点灯し、きらめいた。赤、青、白に黄色──それらはまるで咲き乱れる花のようにさえ見える。

 ああ、これがステラを守ってくれる光だ──。苦悶に歪んでいた表情が、喜びを帯びていく。

 ここにいる限り自分は無敵だ。誰にも邪魔をされることなく、ずっと、ずっと怖いものを寄せ付けることなく生きていくことができるんだ──。

 震える手を伸ばす彼女の手をコートしていた肉の膜が変質し、桃色の耐衝撃用スーツへと変化する。

 彼女は『操縦桿』を握った。

 類を見ぬほどに巨大な、文字通り街ひとつを飲み込むことさえ容易なMSとなった、それを駆るために。







                                         NEXT.....(2017/08/26)