FATAL ASK 2.再会
オーブ軍においては准将という立場にあるキラが、民間のシャトルでプラントへ渡ることを許可されるはずがない。よって彼とシンが乗っているのは軍が用意した専用シャトルだ。
強化ガラスがはめられた窓の外を流れていく星々。そこに映るキラの横顔は、それだけで夢幻の存在をあらわすようで、シンは見ていることに飽きない。
「──すごいですね」
「何が?」 ガラスの中でキラがシンと視線を合わせる。
「あなたが、ですよ。こんな専用シャトルまで使わせてもらっちゃって」
「それは…」 キラは苦笑いを浮かべた。「僕が、じゃなくて、カガリが、かな。僕はカガリの弟みたいだから、そういう扱いをされちゃうのも仕方なく…ってか…」
みたい、というあいまいな表現で明確なことを言わないのはいかにもキラらしい。カガリはもうとっくにキラのことを弟と公言しており、これによって名実ともにオーブはコーディネイターを認める国ということになっているのに。
そしてシンは、今のキラのその言葉の中にウソがあることをとっくに知っている。もちろんキラがこの扱いを受けるのは、カガリの──オーブ現代表の弟だから、という理由が確かにシックリくる。だが違うのだ。本当はオーブ政府自身が、代表の弟だからというもっともらしい理由をつけてまでキラを保護──いや、『保有』していたいのである。
連合に在籍した頃はもちろん、戦争が停戦するまさにその瞬間まで戦い続けていた彼の鬼神が如き強さのことは、すべての者が暗に知っている。
無数の核ミサイルを全滅させた時点ですでに人間技とは思えないものを、多数の部隊をたった一機で幾度も退け、あるいはMS部隊が束になってもかなわない強敵をも退けることができる、文字通り一騎当千に値する人物。味方とすれば絶大な加護を受けることができ、そして敵に回せば破滅は免れない。場合によっては敵味方の区別もなく甚大な被害さえ及ぼしかねない、両刃の剣と称することにも多少の疑問が残る莫大な力、それがキラなのだと。
これらを知る者たちの中で、一部の者はキラがあげた『功績』を讃えたが、また一部の者はキラが出した『被害』に怯えた。恐れる者と讃える者との間でキラが『どちら』であるかの決着は未だついていないが、古来より、こういうものは突き詰めないほうがいいと決まっているものだ。
だからこそというべきなのか、他所の国へ放り出すのも様々な意味で危険すぎて、結局は血縁者の居るオーブが保護しておくべきだということになったのである。しかし、いざキラを准将ということになると反対の声が多くあがった。
第一の理由はキラが若すぎたことにある。
コーディネイターは十五歳で成人を認められるが、それはあくまでもプラントでの話だし、ナチュラルからしてみれば彼はまだ子供にしかすぎない。そもそもどれほどの理知を身につけていようとも、月日の流れに身をおくことで得る経験の差は大きいもの。要するに人生経験も浅い若造を、名だたる歴々を退けてまで将軍に、ということ自体がおかしい、准将でなくてもいいだろうという意見が浮上したわけだ。
そんなとき、まさに鶴の一声で反対派の意見を跳ね除けたのがデュランダルだった。経験の浅さは否めずとも、これからの世界には若い力が必要であり、たった数年間の所属であったとしても彼が軍属の間に得た経験は歴々のそれに値する、と言ってのけたのだ。
若い力、などと、若造自身が何を言う──そんな皮肉が飛んできたとき、デュランダルは涼しい顔でこんなことを言ったそうだ。
『アスハ代表の弟である彼が「軍属でない存在」であることの「危険性」は、あなたがたが誰よりも理解していると思ったのですが、違ったのでしょうか?』
誰もそれに抗議できなかった。高い階位でなければ拘束力が働かず、かといって軍属から外してしまえば血の関係が何より強く物を言う。何と厄介な存在なのだこいつらは──まさに関係者たちの悪意の声が聞こえるようで肩身が狭くてたまらないカガリに、デュランダルはあっけらかんと笑っていたそうだ。
物は言いようですよ。抵抗があるのははじめだけです。そのうちみんな慣れて、何も言わなくなりますので──。
と、シンの視界を青い光がよぎっていった。そのとき、どういうわけだか信じられないものを見たようにギクリと身体が跳ね上がり、彼は思わず窓にはりつく。よく見てみると何のことは無い、自分たちと同じようにプラントへ向かう、民間のシャトルのようだった。
「大丈夫?」 キラが尋ねた。「気分悪い?」
「いえ…へいきです」
言ってシンはフーッと長く溜息を吐いた。ちらりと窓の外を見てみるが、もう先ほどのシャトルはずいぶん先に行ってしまったらしく、見えなくなっていた。
なんだ、今の感じ──。シンは、もうずいぶん長いこと忘れていた何かを思い出しそうになった。脳の奥に、いや、心の奥にポツリと一滴の墨汁を垂らされたような感じ。じわりと何かが身体の中に広がっていく、これは何だ──。
窓の外を見ていた焦点をずらすと、後ろからシンを覗き込むキラの顔がガラスに映った。相手の様子がすこしおかしい、小さな変化にも敏感に気付いたようで、彼の表情はわずかな憂いを帯びている。虚像同士がばっちり視線を交わすが、二人はどちらからも決して口を開かなかった。
まるで、今は何も口に出してはいけないと決められているように。
だいじょうぶ──。シンがやっとそれを口に出そうとしたとき、二人のもとに来訪者が現れた。
「──キラ様、シン様、間もなくアプリリウスに到着いたします」
オーブ軍の制服を着た女がやってきて、固まっているキラたちにそう告げる。
窓の外からは、大きなグレーの建造物が急速に近づいてきていた。
コツン。黒いブーツのヒールが床に当たって音が立つ。イザーク・ジュールはアプリリウス宇宙港のメイン通路を進んでいた。その斜め後ろにはディアッカ・エルスマンが続いている。
大きな歩道型エスカレーターが設置されたそこは大勢の人間に溢れている。プラントの内部ではあるがナチュラルが居たって問題にはならない。表向き──という表現もおかしいが、今となってプラントは、友好意思を持つならばナチュラルであっても受け容れる体制を持つ国家なのだから。
ザワザワとあちこちで騒いでいる人間は、本日ここで行なわれる式典を見物しにきた一般人が圧倒的に多い。今日ばかりはプラント全体がお祭り騒ぎといっても過言ではない。和平条約調印後一周年記念式典というその名の通り、オーブとプラントの二つの国家が永劫の和平を約束した一周年なのである。
「ご無沙汰だよな、姫さんたちにもさ」
ディアッカが言った。いくら総合宇宙港とはいえ、これだけ一般人だらけの場所に軍服で来るわけにもいかない彼らは、パリッとノリのきいたスーツを着用している。ここだけの話だがイザークは、こんな服を着て気を張るくらいなら軍制服を着ているほうが好きだった。
彼らは光栄にも、事実上オーブ軍高位司令官であるキラ・ヤマト、ならびに現在はオーブ滞在中のザフト名誉軍人シン・アスカ両名の出迎えを命じられてここに来ている。イザークたちがキラたちに会うのは、しっかりきっかり一年ぶりだった。それまでの間に交信などがあったかと言えばそうでもない、声を聞くことさえ一年ぶりだった。
「そうだな」 イザークは素直に言った。「あれから一年だ」
彼には話したいことがたくさんある。自分が率いる部隊の話、プラントの情勢、議会のどいつがこういうヤツで──。だが実際に会ったとき、そのどれだけが現実の声に乗るかは判らなかった。
認めたくはないが、感動のほうが大きくて話どころではないかもしれない。イザークはそのくらい、キラに強い入れ込みがある。
数人のザフト軍人が警備する大きなゲートを敬礼と共に通過すると、いよいよそこはVIP専用のメインロビーだ。静まり返っているのかといえばそうでもなく、高齢のオーブ軍人やそれらを出迎えるザフト軍人などでにぎわっている。平和を記念する式典に軍制服では笑えないということでみんなスーツなどを着ているが、これでは誰が誰だか見分けがつきにくい。
さて、あいつはどこにいるのか──。
「隊長!」
女の声がして、イザークとディアッカは自然とそちらへ首を回した。
先発隊──といっては何だが、先に向かわせていたジュール隊の一員、シホ・ハーネンフースがそこにいる。彼女も例に外れず青いシンプルなスーツを着ていて、長いブラウンの髪は頭の上にきれいにまとめてあった。隊の中でもトップガンといっていい腕の持ち主だが、こうして見ると新卒の一般人にしか見えなかった。
彼女はイザークたちに近づいてくると、ビシッと敬礼して見せた。淡いパープルを宿すその瞳は大きく、女性というより女の子らしさのほうが強い。
「お疲れさまです、隊長。彼らはまだ到着されておりません」
「そうか」 イザークは言った。
「昼の便としか聞かなかったからなぁ…」 ディアッカがウーンと唸る。「何番の便か、聞いておけばよかった」
その様子を横目にイザークがフンと鼻を鳴らす。
「そのくらいの準備は当たり前だ。──シホは隊に戻って、議会からの指示を仰げ。あとは俺たちがやる」
「はっ」 シホは従順に答えた。「では、失礼します」
彼女の挨拶を聞き届けてから、イザークはロビーの中へ進んでいった。
デュランダルやアスハの働きによって軍部内でも若い世代が活躍を始めているとはいっても、軍属の人間にはまだまだ中年あるいは高齢の人間が目立つ。三十代や二十代はまだしも、イザークたちのような十代はそういるものではない。それを踏まえると、かつて自らが所属したクルーゼ隊には、よくもまあ同世代ばかりがゾロゾロ揃ったものだと思えるのだった。
もしかしたら、アスランをメインにした若い世代の力を試すため、などという上層部の思惑があったのかもしれない。あのパトリック・ザラなら考えそうなことだ──。
ザワッ。懐かしい記憶を回想していたイザークが、そろそろ戦友の死にまで思考を到達させようとした頃、それまでも十分騒がしかったロビー内部がひときわ騒がしくなった。何事かと思って視線をやれば、オーブ軍人のSPを取り巻きにした何者かが、発着ゲートからロビーに入ってきたところだった。
オーブ連合首長国代表首長、カガリ・ユラ・アスハのご到着だ。美しくきらびやかなグリーンのドレスで完璧にコーディネイトされた彼女がゆっくりと無重力の中をやってくる。その傍らには、まるでバージンロードを歩く花嫁に付き添う父親のようなアスラン・ザラ──いや、アレックス・ディノの姿もあった。
瞬く間にそこには人だかりが出来上がる。出迎えにきたのは最高評議会のメンバー数名だ。さすがに式典本番に向けて準備が忙しいデュランダル本人がここへ来ることはできなかったようである。
──本当は来ようとして、お咎めをくらったのかもしれないが。
「アスハも午後の便だったのか」 ディアッカが言った。
「式典開始二時間前のご到着とは、ずいぶんとのんびりだな」
「──ああ、それはな」
二人の背後から、ひょこりと若い男が顔を出した。スーツ姿なのでついうっかり見過ごしていたが、ジュール隊が従属する空母ゴンドワナの通信士だ。
「オーブのマスドライバーで計器異常があって、代表の船だけすこし遅れたんだそうだ。まぁ無事に到着したんだし、異常も回復したみたいだな」
「ほぉ」 イザークは適当なあいづちを打つ。「他の発着が遅れているというわけではないんだな?」
その問いかけは、キラの船の到着が遅れることを如実に危惧している。だがそれをあからさま過ぎると感知したのはディアッカだけで、通信士はハハハと笑っただけだった。彼は、まさかオーブの将校とイザークたちが親密な関係にあるとは知りもしない第三者なのだ。
「それは大丈夫だろう、式典の開始は定刻どおりらしいからな。おまえらの持ち場はどこだ? 天下のジュール隊なら、評議会メンバーの護衛か?」
「いや、オーブ将校の護衛と案内だ」 イザークは首を振った。
ジュール隊といえばザフトの中でも突飛した高い能力を持つ部隊で、現在における本国からの期待はかつてのクルーゼ隊に注がれたそれに匹敵する。だからこそこれは意外な返答だったに違いない、何も知らない通信士はヘェと首を傾げた。
と、彼らが雑談しているそこをアスハとその取り巻きが通り過ぎていく。イザークとディアッカ、そしてアスランとカガリの四人が確かな視線と、一瞬だけの笑みを交える。ほんの刹那の交わりを済ませ、それぞれはそれぞれの場所へと向かっていく。
「馬子にも衣装ってヤツ?」 ディアッカがケラと笑った。
「おいおい、失礼なこと言うなよ。おきれいじゃないか、アスハ代表」 通信士が驚いて言った。「時にはご自身で戦場に出ることも厭わない勇士でありながら、女性らしく凛々しさも失わないオーブの女王。ラクス様も素晴らしい方だと思うけど、代表もこの何年かで磨きをかけたと思うね」
やはり外交でしかアスハを知らん者には、そう見えるか──。イザークはつい可笑しくなってしまった。今となっては、かつてこそ憧れさえ抱いていたラクスにもそんな感情はわかない。慣れというものは恐ろしい、そんなふうに感じてしまう。
ポーン。また新しい来賓が到着したらしく、ゲートが音を鳴らして扉を開いた。
すでにアスハという最大の衝撃が抜けたあとだから、視線こそ向けても誰もさして騒ぎはしなかったが、現れた人物を見たイザークに襲い来たのは、紛れもなく強い『衝撃』だった。
アスハが太陽の姫であったなら、彼こそは星の王子様だ。キチキチしたことが苦手な性格だから、きっとシャトルが着いてから急ぎで着替えたに違いない服は淡い青をあしらう白を基調にした正装で、しかし襟には軍将校であることを示すエンブレムがキラリと光る。小柄ではないが決して大柄でもない、すらりとしたバランスのとれた身体はしっかりした足取りに後押しされ、ロビーの中へ進み出てきた。
それはまさしく、キラ・ヤマトそのひとだった。
イザークが固まっているのを見たディアッカが、疑問に思ったらしくその視線の先をたどり、ああナルホドと笑う。彼らの目的の人物が登場したことを察した通信士は、ガンバレヨと声をかけて立ち去っていった。
「ども。お久しぶりです」
まず先に口を開いたのは、同行のシンだ。こちらは黒をメインに赤を散りばめるデザインを選んだようで、タキシードの感が強い。もちろん襟にはフェイス所属の証たるシルバーのエンブレムがその存在を誇示して止まない。
「久しぶり、シン」 笑って声をかけたのはディアッカだ。「俺たちが護衛することになってるからさ、今日はヨロシク頼むぜ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
シンは頭を下げ、そして視線を隣に立つキラに向ける。挨拶の出番を譲ったのは確かだが、ディアッカもまたイザークに視線を向けていた。促されるまま互いに少し前へ出る、まるでお見合いシーンだ。
「…変わらんな」 イザークは言った。ふっと息を吐くように笑った顔は、皮肉っぽさよりも安堵の色を強く含んでいる。「本当に、何よりだ」
「うん」 キラも微笑み、答えた。「君たちもね。元気そうでよかった。今日はよろしく」
差し出された手に手を重ね、二人は簡単な握手を交わした。傍目には本当にただそれだけのことだったけれど、交わした手も、声も、一年分の想いを込めた大切な重みがあった。
「カガリもさっき着いたんだよね?」 キラは言った。「式典は大丈夫なのかな」
「定刻どおりって聞いたけどね」 答えたのはディアッカだ。「準備の二時間ってアッという間だし、姫さんたちも急いだほうがいいぜ? いくら喋りの出番がないとはいえ、席はあるんだから入っとかないと」
「のんきなもんですよね」 シンが周囲を見回した。「ギリギリの時間だってのに、まだここはこれだけ騒がしいんですから」
そんな言葉にディアッカが苦笑いする。行こうぜと促されて一同は式典会場に向かって身を翻した。
「近ごろはどうなんだ?」 イザークが訊ねた。
会えばド緊張で話すこともままならないのではないかと本人も危惧していたわけだが、実際に会ってみると相手は一年の経過を感じさせない姿と態度で、だから懐かしさですらわかなかった。つい昨日別れたばかりの友人に翌朝また会った、くらいの気軽さで口を開ける。それが少し嬉しかった。
「うーん、そうだなあ…」 キラがちょっと考える横で、
「アスランとはどうなわけ?」 ディアッカが余計な口を出す。「うまくヤれてんの?」
「貴ッ様は、なんでそう余計なことばかり口が達者なんだっ!」
ばしーんっ。怒ったイザークが変なことを聞いたディアッカの頭をはったおす。うっかり手が出そうになったのはシンも一緒だったのだが、何もせずに済んで何よりだと思った。
「えーっと」 キラは苦笑い半分で言った。「ここんところは、朝起きるのがそんなにつらくないんだよ。夜中でも眠れるようになったし」
「ほぉ?」
それは何よりだ、とイザークは思った。かつては夜明け頃に寝付いて、昼過ぎまでひたすら寝ている生活が主だった。もし午前中に彼が活動しているとすれば、間違いなくその前夜は寝ていない。そんな日々に比べれば、今はとんでもなく平和になったものだと尽々思う。
「イザークは? 部隊の人とは上手くやってる?」
「まぁな」 ふむ、と彼は考えながら言った。
特にこれといって問題は起こっていないはずだ。つい先日、隊長の元同僚であるディアッカを押し退け、シホが副隊長に就任したということ以外は──。
キラはシホのことを知らない。隊の中でイザークも一目置いている者なのだから紹介したいと思ったことはないこともないが、かつてディアッカに、シホと姫さんは似てる、と冗談まじりに言われてから延々と口を噤んでいる。これまでそんなことは考えもしなかったのに、一度意識してしまったそれは、もう二度と打ち払えないものになってしまった。
言われたその直後、意識すると同時に手が動いてしまったのは秘密だ。
「俺は見ての通りだな」 詳しい話をするまでもない、と思ったままに彼は自分の話を切り上げる。「貴様こそ、アスランとは問題ないか?」
「うん…ない、かな?」
考えもって視線を上げてそう答えるキラの横顔を見たとき、イザークは不意に強い違和感を覚えて、刹那、眉を寄せていた。
嘘だ──。そう直感した。
「おい、テキトーなことを言ってないだろうな?」 つい、責め立てるような口調になる。
「え、そんなことないよ?」 慌てて両手を振って取り繕うキラの顔は、まったく普段通りで疑いようもない。「まあその、彼、ここしばらくはこの式典の準備で忙しくしてて、ろくに顔見てなかったけど……──あ、ねぇ、メインロビー通って行ってもいい? 様子を見ていきたいんだ」
「あ? …まあ、構わんが」
許可をもらったキラが真っ先に床を蹴る角度を変えて、一同はそのままでもシャフトエレベーターに乗ることが可能だったVIPロビーを出ていく。
そこは普段と変わらぬ──いや、いつも以上に賑わうメインロビーだ。種を問わず大勢の人間がお祭り気分でうようよしていて、設置された大きなテレビは式典会場の様子をひっきりなしに放映している。
こんな人酔いしそうな光景の何が見たいというんだ──。思いはするが、文句は言わない。どうやらシンも同じことを考えているらしいのが表情でわかった。
人込みの中をさくさく進むキラの後ろについていくイザークに、ディアッカが並ぶ。
「姫さん、嬉しそうだな」
「そうか?」 イザークはつい疑問を発してしまった。
「だってさ、ほら」 ディアッカは周囲を目で指した。「一年前までは、こうやって人込みの中を歩きたくても、ロクにできなかったわけじゃない? タイミング見ないと、『あいつら』が襲ってくるかもしれなかったんだしさ」
あ──。それを聞いたイザークと、聞こえていたシンの表情が変わったのは同時だった。
「やっぱ、一年の同棲生活は確かに功績上げてるよなあ」
ディアッカは素知らぬ顔をしてアハハハと笑っていた。まったくもって悪意はない。
しかし直後、彼はイザークだけならまだしもシンにまで、またしても頭をはり倒されてしまったのだった。
NEXT.....(2006/01/30)