FATAL ASK 18.決意
先日のプラントが行なった記者会見で、ブルーコスモス──いや、連合の一部の上層は大混乱だった。
『みなさん。わたくしが討たれたなど、一体誰が言い出したおとぎ話でしょう?』
確実に殺したはずのラクス・クラインの満面の笑顔が中継された日には、さすがに関係者一同、顎が外れる思いだった。そんなバカなと動揺して裏を取ろうとしても、思いのほかプラントの操作は完璧で、病院関連、軍事施設、評議会講堂に至るまで、情報漏洩の可能性をわずかでも持つ場所は徹底的に評議会の関係者で埋められ、それは口が堅いなんてレベルの話ではなくなっている。
焦るあまりに探りを入れすぎて疑われては元も子もない側としては、工作員の大半を動かせず、成す術もなく会見を見守る他になかった。
しかも彼女の正規婚約者として復帰したばかりのアスラン・ザラが、同会見内でザフトへの現役復帰まで宣言してしまった。愛するラクスを守るため、愛するプラントを守るため──会見で彼が口にした言葉で、そしてそれを聞いて涙ぐんで感激したラクスの姿によって、ある意味でプラントの士気は一気に高まり、市民は反戦への姿勢を改めている。
そして連合側はかつてない危機的立場に追い込まれようとしていた。
ただの思い過ごしと考えることもできる。しかし『ラクス死亡のデマ』が、まさに平和維持絶好調のプラントやオーブによる自作自演とは考えにくい現在、地球圏のほとんどの人間が、あの事件を起こしたのが連合関係者なのではないかと疑い始めたのだ。
そんな噂話が、同軍内部でも実しやかに流れている始末だからどうしようもない。
もとより連合としては、プラントとオーブの同盟が強まる中という厳しい状況下での作戦実行だったのだから、この程度の事態予測はできて当然だったわけなのだが──。
「こんなことで動揺するとは、この組織もここまでだな」
そこまで考えたとき、ロアノークは横から割って入ってきた声に思考を中断された。
はは。思わず苦笑いをしてしまうが、仮面のおかげで表情はわからないだろう。
「おまえ、ほんとに容赦ないなそのセリフ」 ロアノークは言った。
「その通りじゃないか。他に打つ手はないと思えるが?」
「……ここでおまえの言葉に同意したら、俺は軍人失格だよ」
ロアノークしかいなかったはずの彼の自室内でいきなり発言したのは、部屋の隅に立っている男だった。
黒い服、黒い髪。そしてどこか馴染みのある紫の瞳──あのとき絶好のチャンスでロアノークを討たなかったこの男は、彼にカナード・パルスと名乗り、居付いてしまった。
変なのに懐かれるのは、俺の宿命なのかねェ──。仮面の男はそのとき、ついつい苦笑いしてしまったのを覚えている。
「まもなくプラントからクサナギが出航するぞ」 カナードが言った。「襲撃作戦……命令は出ているのか?」
「出てない。……『まだ』、な」
コツリと低い靴音がする。カナードはロアノークへと歩み寄ると、自分より少し目線の高い相手を見やって言った。
「連合は、ここでなんとしても『ラクス襲撃』の責任を他所に転嫁したいはずだ。プラントの反ナチュラル派、極一部のブルーコスモス過激派……『自分』に飛び火しない連中なら、きっとなんでもいいだろう。命令が出ていないということはそういう連中が出てくるのを期して、様子でも見るつもりなのか?」
「そこまで行き当たりばったりの組織じゃないぜ」 ロアノークは本当に苦笑いした。「子供の寄せ集めじゃないんだ、そんないつ出てくるとも知れない極小組織に期待するほどアホじゃないさ」
「……どうだかな」 カナードは息を吐いてそっぽを向いてしまった。「もし出撃の命令が出たところで相手はキラ・ヤマトだ。『マイウスの静』のように戦艦ごと機能停止させられたら、それこそ連合は終わりだぞ」
「わかってるよ」 ロアノークはうつむいた。
「何を考えているのか知らんが、いくらファントムペインが『連合外の組織』と言ったところで、戦艦の製造元も所属する者の出も、プラントがその気になれば全部バレるんだ。わかっているのか」
やはりカナードはどこか苛立っているようだ。ロアノークは彼の言葉を聞きながら、ああまさにそのとおりだ、と何度も内心頷いていた。しかし言葉で同意してしまったら一気に愚痴大会になる。はっきり言って、そうなったらその後の仕事が仕事にならない。だから黙っている。
ファントムペインが『存在外の組織』でいられるのは、その存在が公にならない作戦──隠密行動をメインで実行しているからであって、決して連合の隠蔽が精巧だからというわけではない。
ロアノークもそのくらいのことは充分に解っているが、上層の年配者たちにこの違いはわからない。ここから『ファントムペインは絶対存在外』という慢心が生まれくる。いくらなんでも戦艦そのものがプラント宙域にポンと放り出されれば存在外も何もあったものではない。これから下ろうとしている作戦は、その危険性を充分以上にはらんでいるというのに、連合はその危惧が薄いのだ。
キラの超能力への危惧、それが強まったことへの危機感がないと言ってもいい。要因はひとえに、実際にキラと対峙するのが自分たちではないから……なのだが、これは下層の部隊をいくつも犠牲にしてやっと気付く話だ。
こんなことで、よくもキラを捕獲する気になっているものだ──カナードが苛立つ理由はそこにあるのだろう。
と、そんなカナードがふと顔を上げた。
ピリリリリー。簡素なインターホンが鳴った。来客だ。
「はいはい」 ロアノークは身を翻した。「どちらさんかな」
シュ。自動ドアが開いた先にいたのはあどけない少女だ。かわいらしさを強調されたピンク色の軍用制服を着た、金髪の。
「ステラ」 ロアノークは彼女の名を呼んだ。「どうしたんだ、こんなとこまで出てきて。おまえたちは待機のはずだろ?」
「……ネオ、もうすぐ、お仕事?」
ステラはひょこんと首をかしげた。そんな仕草が仔犬か仔猫のように愛くるしい。
「ああそうだ」 ロアノークは頷いた。「ステラたちにも手伝ってもらうんだから、ちゃんと待ってないとダメだぞ?」
「ステラも…お手伝い、できる? ネオの、お仕事……」
「できるさ。ステラたちじゃなきゃ、できない仕事だ」
ポンとロアノークの手がステラの髪を撫ぜた。それまですこしぼけていた少女の表情が、見る間に嬉しそうな笑みを湛えていく。雲間から太陽が顔を見せる瞬間にも似た変化を見せたステラに、仮面の男はウンと頷いて見せた。
「がんばるから」 少女はぐっと強く頷いた。「ネオのこと、ステラが守る!」
ステラはほとんど自己完結で言葉を放つと、相手の返事も待たずに廊下を戻っていってしまった。奪ってきたMSで出撃するから命令があるまで待機するように、と言われていたはずだから、格納庫へ戻ったのだろう。
男は少女の背を見送った。彼の想いを示すはずの表情は、仮面に隠されてまったくわからない。
「微笑ましい親子愛だな」
「なんだよ。妬いてるのか?」
「ばっ……!」
すかさずロアノークが放った言葉に、カナードがした反応はかなり露骨だった。先ほどのステラが見せた変化よりも遥かに早く顔が真っ赤になったところを見ると、本当にヤキモチを妬いた発言だったらしい。
思わず吹き出して笑ってしまいそうになるが、ここで笑ってしまったら、この勝利を司る軍神は、自分たちの前から永遠に立ち去ってしまうことだろう。
「さあて」 ロアノークは言った。「放っておいてもこのあと来るのは出撃命令だ。俺もブリッジへ入ることにするよ」
「ああ、さっさと行けっ!」 目を合わせないように、顔を見られないようにしながらカナードは吐き捨てるように言った。
「おまえはどうするんだ、カナード?」
と、問いかけられた彼の目が、ちらりとロアノークのほうを向いた。
鋭い、攻撃的な光を宿した瞳だ。暗いところでは妖しく光るくせに、こうして光の下で見ると、恐ろしいほど深い闇を湛えた魔性のそれ。
長い時間見つめていたら、それだけで自分の中で、何かが狂い出してしまそうだ。
心? 精神? いや、もっともっと、違うところにあるもの──魂、というものが。
「最初に言ったはずだ」
ふい、と視線が外れた。もうすこしで何かが掴めそうだったロアノークの意識が、急速に現実へ戻ってくる。
俺はたしか、あの瞳をよく知っていたはず──。
「オレはネオと共にある」 カナードは言った。「そのためなら、どんなことでもするとな」
『ミネルバ、並びにクサナギ。貴艦がたの無事の航海を心より祈る』
アプリリウス宇宙港管制塔からの最後の言葉に、ミネルバ艦内のクルーたちは一斉に敬礼で応えた。ブリッジにいたシンとアスラン、そしてグラディスもまた同じだ。
残念ながらメイリンは回復が間に合わなかった。アウル──あらゆる『液体』を操る彼に治療させるか、という意見もチラリと出たのだが、彼女自身がそれを拒否したのだった。被害者と加害者、そんな二人の関係を考えれば当然の結果なのだが。
「アプリリウス港より、クサナギ、出航します」
メイリンの席に着いている女──アビーの声とともに、ブリッジ内のメインモニターに、まさにアプリリウスより出て行くクサナギの映像が現れた。周囲には数機の小型護衛艦を連れている。
「なんか、へんなかんじ」
ぽつりと言ったのはシンだ。なにが、とアスランの視線が向く。
「ずーっと一緒だったせいだとは思うんだけど」 シンは言い難そうにしている。「キラがここに……いない、から」
「違和感?」 アスランがやんわりとたずねる。
「オーブに着いてキラたちを降ろしたら、そこからはずっとこうなんだよな…」
「ああ。俺も、慣れるのに時間がかかりそうだ」
アスランがやれやれと肩を竦めると、シンはエッと信じられられないものを見るように視線をやった。
「なんだよ」 アスランは言った。
「いや……あんたがそんなこと言うなんて」
「意外か?」 またアスランは言った。面白そうに。
「意外っていうか。あんたはいつだってキラと繋がってるんじゃないのかよ」
「おまえが思ってる条件で俺とキラが繋がってるって言うなら、おまえもそうだよ」
「はあ?」 シンは意味が判らなくてきょとんとした。
「ほら、シン」 アスランはあらぬ方向を見やって言った。「俺と違って、おまえはここに同年代の仲間がいるんだから、待機中くらいお喋りしてこい」
アスランが見ている方向へ目をやってみると、ブリッジと廊下の境目になっているドア付近で、何やら珍しいものでも見るように見知った顔が集団になって自分たちを見ていた。
ヨウラン、ヴィーノ、ルナマリアにレイ。ルナマリアの顔を見たときにはさすがにドキリとしたが、彼女が能力者に対して畏怖の念など微塵も抱いていないことは、今か今かと話しかけるタイミングを待っている嬉しそうな表情を見れば、バカでもわかる。
「何かあったらアラートが鳴るんだ、すぐにわかるよな?」 アスランは言った。
「できれば、アラート以外の呼び出しでお願いシマス…」
シンはうんざりしながらアスランに背を向けた。アラートが鳴るということは、パイロットたちには出撃命令、クルーにしてみれば第一戦闘配置の合図だ。
要するに敵襲があったと、艦内放送で言われるよりも判り易い憂鬱の瞬間なのだ。
できることならオーブの港に着くまで、そんなものは聞きたくない。できるならクサナギとの通信が繋がって、キラと話ができるってときにでも呼び出してくれればいい──。
「よっ、シン! マイウスぶり!」
ブリッジから出たシンに真っ先に声をかけたのはヴィーノだった。彼には『魅了』を使用してしまったわけだが、そのときの記憶はきれいに消えているようだ。
「久しぶり」 シンは笑った。「元気そうだな」
「話したいこと山ほどあったのに、シンってば、ずーっとアプリリウス庁舎に入ったまんまでさぁ」
「や、ごめん…」
「まあまあ、そりゃしゃーないって」
いきなり文句を言い出したヴィーノをいさめたのはヨウランだ。
「シンってフェイスになったんだろ? もうミネルバのパイロットってわけじゃないもんな」
「あーっ、そうそう!」 ヴィーノがパッと顔を上げた。「シン、フェイス昇格おめでとう!」
「え?」 謝ったりきょとんとしたり、シンは忙しくなってきた。
「マイウスのときは、とても言える雰囲気じゃなかったからさ?」 ヴィーノはにこにこしている。「みんなで何かプレゼントでも買おうかって言ってたんだけど、今度はそんな暇もなくクサナギの護衛になっちゃって」
「いやっ、そんな、いいよ!」 シンは慌てた。「そんなに気ィ遣ってもらわなくてもっ」
「気遣いと好意はベツモノ! ちょっとは喜べよなー!」
ヨウランがシンの背をぶったたいた。
あわわとよろけるシンの姿を見てルナマリアは楽しそうに笑う。
「ねぇ」 彼女は言った。「ここじゃなんだし、休憩室でも行こうよ」
「そうだな」 同意したのはレイだ。
「じゃー、シン、お借りしていきまーす!」
ブリッジ内部のアスランが笑って手を振ると、シンは何か言いたそうにながらも、あっと言う間に仲間たちに連行されてしまった。縁起でもないことだが、これでは本当にアラートが鳴るまで帰ってきそうにない。
若い連中には危機感がないとか上層部は文句たらたらだが、こういう緊張の緩めかたがあってもいい──同じく『若い世代』には違いないアスランは、そんなことを思っていた。
『──シン、楽しそうだったね』
アスランの耳元で、不意にキラの声がした。
「『視』てたのか?」 アスランは言った。呟きに等しくクルーたちには聞こえない声量だ。
『見えちゃうんだもーん』 キラの声はおどけた。『──このまま、無事にオーブに着くといいよね』
「そうはいかないさ。ブリッジ内は常に厳戒態勢みたいなものだ。評議会からは、いつ敵襲があるか判らない、細心の注意を払え、と念を押されている」
『シンに言わなかったんだね。その話』
「………甘いかな」 アスランは自嘲めいた笑みを浮かべた。
『シンは怒るだろうけど。でも、シンが怒るのも、君が言わなかったことも、それぞれの意思だから』
「あいつには一応、いま、ここで仲間と過ごす時間を大事にしてほしいんだ」
『わかってるよ。僕たちに関わりすぎて、自分の時間、全然ないからね』
刹那、アスランは黙り込んだ。キラからの続く言葉はない。沈黙をおいた相手のことを何と思っているのか、本人が目の前にいないからわからない。
シンに今の、仲間たちとの時間を大切にしてもらって、そしてどうなるというのか。つまらない疑問かもしれない。しかしこの航海が終わっても、シンにも自分にも軍人としての時間がずっと続くのだ。それならシンには、今この瞬間こそ軍人としての感覚を取り戻すための訓練として受け取ってすごさせるのがいいに決まっているのに、アスランはあえてその選択を無視した。
これが親心、というやつなのかもしれない。
不器用な子供時代なんてアスランにはなかった。いびつな時期こそあったかもしれないが、育ちのせいか環境のせいか、彼には親への反抗期というものがみじんもなかった。だからこそ今まさに反抗期絶好調なシンの姿が微笑ましく見え、些細な反抗もかわいいと思え、そんな彼の今を大切にしたいと思うのだろう。
シンが聞いたら怒るか恥ずかしがるかだが、どちらの場合でも真っ赤にはなるに違いない。
『──アスラン。もしかしたら連合は、ファントムペインを切り捨てるつもりでかかってくるかもしれないよ』
不意に聞こえたキラの声に、ひとりで苦笑いなんて浮かべていたアスランはハッと我に返った。
「どういうことだ?」
『連合にはもう逃げ道がないんだ。オーブとプラントが、ラクス襲撃・マイウスの異変・そしてラクス死亡のデマ──こんな意味のないパフォーマンスをするはずがないんだから』
「なるほどな。単純な消去法で見れば、あとは連合しか残ってないわけだ」
『連合は多分、地球圏のそんな疑念を一気に解消したいと思ってる』
「できるわけがないだろ」 アスランは驚いて言った。「カガリがオーブに帰ったら、議長は例の三大事件の責任を連合に追求していくつもりなんだぞ」
それに、デュランダル側には元ファントムペイン所属者のアウルという最大の証拠がある。かつてアウルは自分をネタにした追求はできないと言ったが、そんなことはない。今どき国家規模の隠蔽工作なんて珍しいことではないし、過去に遡ればいくらでも似たような事例が存在する。
長い時間は必要なるが、とぼけ続けて逃げ切った組織・国家などないのだ。
『だから』 キラの低い声が慎重に言った。『──今なんだよ』
「オーブとプラントが揃って問題提議に来る前に、ファントムペインを反逆組織に仕立てるつもり──か」
『……うん』
「アウルがそう言ったのか?」
『なんとなく、そう感じるだけ』
アスランは何も言わなかった。
『こんなこと、本当はわかりたくないんだけど』
「タワーから出た途端に、ずいぶんと感度が良くなったんだな」
『──気をつけて、アスラン。「向こう」も間もなく出撃のはずだから』
「わかった。……クサナギは必ず守るよ」
キラの声は応えなかった。ありがとうと言うにもごめんねと言うにも、そぐわなかったせいだろうか。
キラの性格はよくわかっている。こんな場面になったら相手に何と言えばいいのか、彼なら一瞬の躊躇をしてしまうだろう。そしてそのままタイミングを逃す。幼い頃は言葉の意味なんてきちんと理解せず、その場に見合った返答をしていた気もするが。
いつものことかと思い、アスランは、そのままテレパシーが自然に途切れたのも気に留めなかった。
だから彼は気付けなかった。
キラは返事に迷ったのではなく、不意に黙り込んだのだということに。
「と、いうわけでーぇ」 ヴィーノが声も高らかに言った。「我らが親友、シンの軍役復帰とフェイス昇進を祝って!」
『かんぱーい!』
ただの飲料水が入っただけのプラスチックのコップが持ち上げられ、コーンと軽い音を立てる。それぞれのコップを持つ手の主たちにとっては、勝利の美酒にも匹敵する、意味のある杯なのだが。
「や、やめろよ、おまえらっ」 シンは恥ずかしさのあまり、周囲を見回しながら言った。「そんなめでたいことでも…」
「なに言ってんのよ」 ルナマリアはにこにこしている。「こうしてまた、あたしたちと同じ所属になれたのに、不満?」
「そっ…そんなわけだろ!」
「なら、喜べ喜べ!」 ヨウランがシンの首を捕まえて言った。「オーブについたら、なんかメシでもオゴッてやるからさ!」
「あっ、それいいわね」 ルナマリアがポンと手を合わせる。「なら買い物も付き合ってよ! メイリンに、なんかおみやげ買ってあげたいし」
「おれの歓迎会は『ついで』かよっ!」
思わず反論してしまうシンに、様子を見ているレイがぷっと笑う。普段は滅多に感情を出さない奴なのに、やはりルナマリアたちと同様、シンの復帰を嬉しく思っているようだ。
「そんで、シンッ」
設置されたストゥールに腰かけながら、ヴィーノがおいでおいでしている。
その表情はまさしくイタズラ坊主、アカデミーに居た頃から変わっていない笑い顔だった。
どことなく、くすぐったい感じがする。一年前、キラたちと共に修道院で暮らし始めた頃には、もう戻ることもないと思っていた場所がここなのだ。
「なんだよ」
「『マイウスの静』の時、さ!」 ヴィーノはホラホラ、と促しながら言った。「ミネルバに乗り込んできた連合の奴らの中に、女の子が居たんだろっ?」
「あ、ああ…」 シンは思い出しながら頷く。「おれたちと、そんなに変わらないくらいの娘だったかな」
「で、どうだった?」
「なにがだよ?」
「だ、か、らっ」 友人は目を輝かせている。「カワイかった?」
ぶはっ。口をつけたコップの中身が鼻に逆流しそうになって、シンはとっさに前屈みになってしまった。押さえ切れなかった分がこぼれて、無数のガラス玉のように宙に舞う。
しばらくむせたあとで、シンはおよそ一般常識人として当然の文句を言った。
「なに言ってんだよっ、相手は敵なんだぞっ!」
「別にいいだろっ。お近づきになりたいってワケじゃないんだしさ」
「そうだぜ、シン」 ヨウランもノッてきた。「ウワサくらいいいじゃねーか」
「あたしは、ちゃんと不謹慎だって言ったんだからね?」 ルナマリアは腕を組んでいる。「こいつらってば、近くにこんなイイ女がいるっていうのにさぁ」
「……ルナは、レンアイタイショーじゃないよな」 ヨウランがぽつりと言った。
「…そだな」 ヴィーノがウンウンと深刻に頷いた。「なんか、見飽き…見慣れた?」
「聞こえてるわよっ、あんたたち!」
「わー!」 ヴィーノがパッと両手をあげた。「エースさまが怒ったああぁぁ!」
ここでドタバタの追いかけ合いでも始まれば文句なしのコメディだが、そこまで彼らも子供ではない。一瞬の間を置いて、最初に吹き出して笑ったのはルナマリアだった。
「あははっ。やっぱりシンがいるのといないのじゃ、全然カンジ違うわよね!」
「そうだよな!」 ヴィーノが同意した。「やっぱり、このメンバーじゃないと!」
「ほらっ」 ヨウランがシンの背中を押した。「みんなに何か、ヒトコトお願いしまーっす!」
先ほどと同じようにアワワとよろけながらも、シンは一歩前に出て、一同の顔を見渡した。
シンが超能力者であることを知ってもなお、彼らは変わらず良い友人でいてくれている。そして今回、キラの忌まわしい姿を見てもそれはまったく変わっていない。
ここは、おれの帰る場所だ。こいつらだけは、どんなことをしても守り抜いてみせる──シンは改めて強く決意する。
「ありがとな、みんな!」
彼はこのときほど、素直な気持ちで感謝の言葉を口にしたことはなかった。
NEXT.....(2010/03/06)