子星


「踏み込みが甘いぞ! 一瞬で私の懐に飛び込んで見せた、あの時の速さはどうした!」

「すみません師匠! 今一度、お願いします!!」

 夜も更けてきたというのに、離れの道場では剣真と火牙刀の鋭い気迫と声が響いてくる。

 ……瑠璃が『創った』っていう武器。使うとしたらやっぱアイツなんだろうなあ──。聞くともなしに彼らの修練する音や声を聞きながら、嵐丸はひしひしとそう感じていた。

 サイガが語った『宝具』の存在を真幻に知らせる手段として、嵐丸はもっとも手っ取り早く『忍の里に伝わる伝承』という文句を取って付けることにした。忍の里はその名に恥じず秘密主義的な部分が非常に大きく、出身者である嵐丸自身も知らぬ作法や掟がある。関係者ですら全容を掴んでいない里の『伝承』であれば、信憑性はさておき、調査の価値くらいは見い出されるであろう──嵐丸の案を聞いたサイガも、そう言って頷いた。

 忍としての知識や技量であれば夕顔のほうが彼を遥かに凌ぐのだが、彼女はのらりくらりと理由を付けては武神家の仕事に手を貸そうとはしない。そして今日も、何だかんだと言いながら修行に励む火牙刀の様子を楽しそうに眺めている。あいつときたら、天魔との全面戦争を前にてんでやる気がない。

 あれは恋する娘の目だよ、きっと火牙刀に惚れてるね──。とっくに成人した子を持つくらいの年頃の使用人たちは面白がってそんなことを言っていたが、何かにつけて火牙刀に絡む彼女の態度を見るに、あながちハズレとも言い難いのかもしれない。

 あーんなカタブツの何がいいんだか──。何となく負けた気がして、嵐丸は思わず大きな溜息を吐いてしまった。どこか不貞腐れた子供のような表情は、数多の忍術で大多数の敵を翻弄する者のそれに程遠ければ、胡坐の上に頬杖をつく態度に至っても、真幻に報告がある旨を衛兵に伝え、表座敷で待機している武将のそれでは、もっとない。

 ただ、この屋敷の──否、この国の武将らが揃いも揃って、火牙刀に期待を寄せていることだけは確かだ。本来であれば真幻が一騎打ちの相手として相応しかろう剣真をその手で打ち負かし、新たにこの鬼龍における『最強』の称号である『龍』の名を戴いたばかりの彼に。

 天魔の騎士には後れを取ったと聞くが、火牙刀の神髄は、その恐ろしいまでの早さで育つ『順応性』にある。飛翔する天魔人の『速度』に目と身体が追い付いた時、きっと彼はどんな敵にも引けは取るまい──武神の武将となった頃から互いに切磋琢磨してきた相手として、嵐丸は火牙刀をそこまで評価し、また理解しているのだった。

「おう嵐丸。待たせたな」

 と、湯殿より戻った真幻がのっそりと奥座敷から姿を見せた。閑那の献身的な看護のおかげで、龍上との戦で負った傷はもうほとんど癒えているようだ。

「いえ」 嵐丸は頭を下げ、言った。「このような時間の呼び立てにも快く応じて頂き、かたじけのうございます」

「で、俺に報告してえことってぇのは、何だ?」

「は。──先日、天魔の騎士どもが帰還する際、あとを尾けておりました俺は、『エクス・カリバーン』なる『宝具』の名を耳に致しました」

「ほう?」

「俺が出身であります忍の里に、古い伝承があります」 ここぞと嵐丸は言った。「ヒトに、ヒトならざる力を与えるとされる、神々が創りたもうた遺贈具──そのひとつが、天魔にあるのです」

「あー、そりゃアレだね? 『ミスティック・ギフト』のことだねぇ?」

 閉じていた窓の紙障子がサッと開いたと思ったら、屋根側から逆さまになって顔を出してきたのは夕顔だった。場にそぐわぬあっけらかんとした顔付きは、イタズラ小僧のそれに引けを取らない。

「嵐丸君、よく知ってたね?」 夕顔は不思議そうに言った。「ボクでも、今キミが言った程度のことしか知らないのにさ」

「お、あ、ま、まあな!」 どう答えていいものか迷い半分動揺半分に、座敷へ飛び込んできて興味ありげに覗き込んでくる彼女から顔を逸らし、嵐丸はやっとのことで返事をした。「俺も名前くらいしか知らなかったんだけどよ! あいつらがソレを持ってるとなっちゃ、大変だろっ。それで調べてたんだよ!」

「ミスティック・ギフトだぁ?」 真幻は新たな単語を聞き付けて、首を傾げた。「嵐丸、夕顔。ソノ気があるなら詳しく聞かせな?」

「ボクが知ってる伝承はこうだよっ」 エヘンと胸を張った夕顔は、講師のようにピンと指を立てて得意げに言った。「──南北に輝ける星ありき。其の呼応は地を引き寄せ鬼龍を成す。其は剣の型に在り煉獄の炎をもちて、操る者の身を焼き尽くし神々のもとへ誘わん」

「それだっ!」

 思わず身を乗り出し、嵐丸は大きな声で言って真幻を振り向いた。

「御館様っ! この鬼龍の地を成すに至るほどの『剣』ならば、必ずや天魔王の『ミスティック・ギフト』にも対抗できましょう──いえ、打ち勝てましょうぞ!」

「……確かに、『実在するなら』それほど強力な武具はねえだろうな」 うむ、と唸りながら真幻は言った。「だが、天魔との開戦までもうそれほど時間はねえ。『鬼龍の南北』といやあ、有名どころは『カムイコタン』と『ニライカナイ』だが、あそこは精霊の自治区と謂われるほどの危険な霊場だ。本当に存在するかもわからねえ以上は賭けの領域を出ねえのに、そんな全国縦断の長旅をさせてる暇はねえぞ」

「では、存在の『記録が在る』ならばどうだ? 武神の」

 座敷の障子がまた開いたかと思えば、今度は龍上剣真がやってきた。いくら厳しい修行といっても、適度な休息を取らねば無駄に疲弊するだけとして今夜の修練を切り上げてきたのだろう、背後には火牙刀も控えている。

「ここに手記が無いことが残念でならんが、私の曾祖父が、カムイコタンにおいて『神刀の守護者』を名乗る『精霊』と対話をしたという記録があるのだ」 真幻の正面を譲って左右に展開した嵐丸と夕顔の間に腰を下ろし、彼女は言った。「──残念ながら曾祖父が『神刀』の持ち主として選ばれることは無かったが、それは、遠目にも眩いほどの朱き炎を宿した紅蓮の剣であったというぞ」

「なるほどぉ」 夕顔が顎に手をかけ、ウゥンと唸った。「カムイコタンに神刀が実在したってことは、ニライカナイのほうも濃厚だなあ。ケド、『守護者』がいるとなると……」

 簡単に受け渡してはもらえない──。誰しもの表情に、その不安がよぎる。おそらくは──否、もはや確信的に『試験』が待ち受けていることは明白だ。どこかの国の伝承のように、岩に突き立って持ち主の到来を待っていてくれているほうが余程ありがたい。

 嵐丸は考えてみる。仮に自分が、サイガを伴って旅に出ることになったとしても、サイガがその『試験』に手を貸してくれるかといえば恐らくそうではないだろう。かの龍神は助言をするとは言ったが、助力するとは言っていない。戦に打ち勝つ可能性を秘めた武具の獲得に手を貸すことは、彼が自身で言う通り『不可知の神』ゆえに決して叶うまい。

 そして、それほどの代物なのだ。おいそれとここの衛兵を遣いに出したところで、実在の確認こそできるかもしれないが、持ち帰ることまでは到底できそうもない。だからと言って真幻や剣真、あるいは風林火山の誰かが欠けることも避けたい──、一同が何と言ったものかと思案している重い沈黙の中で、すっと顔を上げるのは例に外れぬ、ひとりの少年。

「御館様。そのお役目、俺に任せてくれませんか」

 火牙刀だった。

「実在しているというのなら話は早いではありませんか。行って、持ち帰ればいいだけです」

「バッカおまえ、本気で言ってんのか!?」 たまらず声を上げたのは嵐丸だった。「何のためにこの龍上剣真がおまえの師匠についてんだよ!? おまえは天魔との戦で、御館様の切り札になる武将なんだぞ、そんな簡単に旅に出るなんて言うもんじゃねえ!」

「いや待て嵐丸」 すっと持ち上げた太い腕で家臣を制し、真幻は言った。「……火牙刀。俺ァな、天魔との戦では前線の指揮をおまえに任せようと思ってンだ」

「……は」 身に余る光栄だとばかりに、身を退かせた剣真の奥で火牙刀は頭を下げる。

「だが、旅に出るっていうなら、その期間の修行はできねえってことだ。……それがどういうことだか、わかってるか?」

「無論、承知しております」 顔を上げた火牙刀の顔には、一切の迷いもない。「ならば旅立つその日までに、この真城火牙刀、免許皆伝、成し遂げてご覧に入れましょう!」

 あまりと言えばあまりの発言に、表座敷が一瞬シーンと静まり返る。

「……ふはっ」

 もう堪え切れない、とばかりに笑い声をもらしたのは剣真だった。口元を押さえ、肩口を震わせているその姿は、誰がどう見たって笑っている。

 そして。

「く…ッ」 同じように、真幻も堪え切れず声を漏らしたかと思えば、彼は膝を叩いて大笑いし始めた。「はーっはっはっは! 言ってくれるじゃねえか火牙刀! それでこそ俺が見込んだ男だ!!」

「はっはっは、免許皆伝と言ったのかこいつは!」 剣真も大笑いしているが、その様子はとても清々しげで、ここまでの重い不安を吹き散らすような踏ん切りがあった。「たった数ヶ月で私よりも強くなろうと言うのだな、まったく頼もしい男だよおまえは!」

「おい……夕顔」 完全に引いていた嵐丸は、そっと傍に居た少女に耳打ちして言った。「おまえ、この状況笑えるか?」

「あそこまで爆笑はできないケド」 と、前置きをして、夕顔はフフッと面白そうに笑ってみせた。「いかにも火牙刀君が言いそうなコトじゃないか? ボクも楽しみになって来たよ」

 ……そう、自分も引いている場合ではない。

 サイガが手がかりをくれた『神刀』にまつわる伝承は、確かにこの地にあった。実在したという確かな情報さえも。

 火牙刀がやる気になり、真幻や剣真もそれを後押しする雰囲気が高まっているのなら、嵐丸だって、彼がやがて受ける『試練』に打ち勝てるよう支援してやらねばならない。武神家が総出で、火牙刀の鍛練に付き合う日々が始まるのだ。

「ひとまず、だ」 と、真幻が何事か思い付いたように言った。「修行っつっても、ただワラのヒトガタを相手にしてるだけじゃあ、どんな太刀筋も単なる芸よ。短期間で一気にウデをあげようってンなら、実戦が一番だろ」

「御館様?」 その意図を汲みかねた嵐丸が疑問を口にする。「いったい、何を──」

「まあ見てな。明日の昼には、いい報せを出せると思うぜ。だから今夜はさっさと寝て、万全の状態で俺の前に参じるこった」

「……は。このような刻までの騒ぎ立て、申し訳もございません」

 外の林で鳴く虫や夜鳥の声を聞き付け、今がすでに、寝支度を始めるにしてもあまりに遅い時間だということを察知した嵐丸は、それ以上を追求せず、大人しく主の言葉に従うことにした。

「火牙刀」

 そして座敷を立ち去る際、寝所が違うために別々の方向へ別れようとした相手に、彼は声をかける。

「無理はすんなよ。怪我でもされたら、コッチが迷惑するんだからな」

「わかってる。改めて、明日からよろしく頼むぞ」

 とてもそうは聞こえない気遣いの言葉だったが、火牙刀はちゃんとその真意を汲んでくれたようだった。

 思えば、火牙刀とはこういう男だった。軽口や、時には悪口であっても、彼はそれを口にした人間の良心を見抜く術に長けている。

 負け戦の生き残りとして、幼い身に余るほどの苦境を歩んできたからこそなのか、『根っからの悪人は居ない』というのが彼の持論だ。何かにつけて嵐丸と対立が発生しやすいのも、歳が近いことによる親近感と、属性的には真逆のものであるそれぞれの戦術への誇りがそうさせるのだと理解している。時として嵐丸の方で口や態度が過ぎることがあっても、そんな火牙刀の心持ちによって、彼らはいがみ合うまでには至らずに済んでいるのだ。

 『あいつ』の名が『視えた』のも、そういうところのせいなのかもかな──。ほんの少しの悔しさまじりに、嵐丸はふっと自嘲気味に笑った。



 トタトタと軽い音を立てながら、深夜の渡り廊下を歩く白い影があった。

 向かう先は離れの蔵だ。この国の土地から村から街から、あらゆる場所に散らばる書物をひと処にかき集めた大書物庫ともいえるそこは、人が住むにも申し分ない規模を持つ。

「と、停まれっ」 蔵の門番をしていた衛兵が、見知らぬ出で立ちをした者の姿に驚いて、槍を構えて言った。「貴様、いったい何者──」

「サイガは中か?」 少年の姿をしたリュウガは、当たり前のように言った。「すこし邪魔をするぞ」

「あ──」 一瞬、目の焦点を失ったかに見えた二人の兵は、すぐに我にかえって槍を引いた。「これはリュウガ様、失礼を致しました。御方様はこの蔵の地下に御座します、どうぞ」

 開かれた重い扉をくぐり、サイガが入るために多少の掃除をされたとはいえ未だ相当に埃っぽい床の間を進み、彼は地下の石蔵へ続く木の階段を淡々と降りていく。

 今はあどけない少年の貌をした、闘神でも在りたる龍神の顔には、何の表情も浮かんではいない。──否、強いて表現するならば、わずかに強張りがちらつく。

 彼は恐れて……畏れてすらいた。

 この先に居る者に会うことに。その者と言葉を交わすことに。

 いや、そもそもかの神羅聖龍神サイガは、この新世界へ降りるための代償として自らの『声』と『言葉』を封印してきたのだ。メビウスと対面してもそうであったように、何事を訊ねられようとも語るつもりがなかったのは見るに明らか。ならば会ったところで、自分など歯牙にもかけられぬのではなかろうか──。

『……いつまでそうしておるつもりだ?』

 閉じた石扉の向こうから、くぐもったサイガの声がして、リュウガはぎくりと身を竦めた。階段などとっくに降り切って、彼はあとこの扉一枚を開くだけのところでただいたずらに、ひたすらに葛藤し時間を浪費していたのだった。

『そう緊張されては俺が落ち着かぬわ。本来そうで在るのは俺のほうであろうよ』 やれやれと笑いまじりの声が近くなったと思ったら、扉は自ら開いてくれた。

 ──と、一瞬の間。

「…ほう」

「へえ…」

 ふたりの声がほとんど同時に出て、重なる。彼らは互いをよく知っていたけれど、今は互いに初めて見る姿をしていた。

「こんな子供の頃から、そんなきれいだったんだな」 リュウガはつい、思ったままのことを言ってしまった。

「当たり前であろう。俺の見目は母上譲りぞ」 至極当然と言わんばかりに、そして誇らしげに胸を張ったサイガは、今度はまじまじとリュウガの顔を覗き込んでくる。「だがおまえからは、童であった頃の愛らしさが消えてしもうたな。髪を切ったのはこの頃なのか? もう、『今』とそう変わらん顔付きをしておるな」

 すっと伸びてきたサイガの両手がリュウガの頬を撫で、短く刈った濃紺の髪に触れる。長らく触れていなかった指の感触と体温に感情の堰を切られ、リュウガは半ば襲い掛かるような速さで相手の手をとっ掴んで引き寄せ、口付けをした。

「…っばか!」 怒声を上げたのはリュウガのほうだった。「そんなふうに簡単に近寄っていくから、変な気を持たれるんだぞ!」

「お、…おぉ?」 相手が何を怒っているのか一瞬こそわからない顔をしていたサイガだったが、すぐに嵐丸のことを言っているのだと気付いたらしく苦笑いを浮かべた。

「あ、いや…すまぬ。俺は至極普段通りで居たつもりだったのだが……というか、嵐丸がどのように俺を見ようとも、俺の気持ちは変わらぬよ。そう案ずるでない」

 ほら、と示すように両手を広げたサイガが、今度はリュウガを引き寄せて口付けを返して来た。小鳥が啄むような愛撫が唇を掠めて、そんな相手の少しはにかんだ表情と仕草を見て、唐突に自分のほうが猛烈に恥ずかしくなってしまった。

「いっ…!」

 頭が爆発したように真っ赤になりつつ、リュウガは慌ててサイガから距離をとって言った。

「いいいっいいんだよ別に! 結局あんたは何してたってサマになるし、どうしたって強いし、向こうがほっとかないタイプだって、わかってるさ! 昔っから自分の考えなんかひとつも話しちゃくれないし、ひとりで納得して居なくなって……って、オレ何言ってんだろ──」

 動揺のあまり余計なことまで口走っていることに気付いて更に動揺を重ねているリュウガを、背後からサイガがそっと抱きしめた。風ひとつ通らぬ石蔵の深層で、そうして感じた空気の流動からは、清々しいせせらぎの匂いがした。

「おまえを頼うてやれんで、すまぬな」 サイガは言った。「だが、おまえに話せばおまえまで俺の『罪』の片棒を担いだこととなったろう。俺はそれを避けたかった」

「そんなの、今更だろ」 自分の身体を抱いてくれる腕にそっと手を触れ、リュウガは言った。ちょっと不貞腐れた調子になっているのは気のせいではない。「どうせ二人揃って神羅神が誓約を破ったところで、怒ったのはアイツだけだったろうし」

「そう言うてやるでない。八人で同じ誓いを交わした以上、これは確かな『誓約』なのだ」 たまらず苦笑いを重ねて、サイガは言った。「それにメビウスがああも怒るのは、あやつもあやつなりの想いでこの新世界を愛しておる故よ」

「……メビウスは言ってたよ。『ミスティック・ギフト』の『意義』を見誤ってこの世界の人間同士が争い合った結果この世が滅ぶなら、それもこの世界の意思……『この世』が選んだことなんだ──って」

「そうか……ああ、そうであったな」

 思えば創世の日、彼が言ったことだ。

 生きるも死ぬも、この世界の者たちの自由。新たに生まれ来るも、また己があやまちで滅びゆくも、すべてがここでは自由なのだ、と──。

「ならば俺は、今のこの世に、尚のこと納得がいかぬ」

「え?」

 するりと腕が離れ、サイガは歩を進めた。書蔵を出て、軋む階段に足をかける。

「すまぬ、リュウガよ」彼は夫を振り向いて言った。「メビウスがそう言うのであれば、俺はどうあっても、ここでヒカリに会わねばならぬのだ」

「……オレは止めないよ」 肩を竦め、さも当たり前と言わんばかりにリュウガは言った。「こうして会いに来たのだって、……その、あの嵐丸とかいうヤツのことで文句を言っておきたかっただけだし。あなたがそうまでして成したいことがあるなら、オレがそれに手を貸せないなら、オレは最後まで見届けるだけだ」

「苦労をかけるな…」

「そう思ってるなら、謝るより感謝してほしいな」

 えっ、と、喉元まで出かかった言葉を絞め殺されたように目を丸くしたサイガは、つい今しがたまで自分がリュウガに謝ってばかりだったことに気付いたらしく、自嘲して笑った。

「感謝か。……言われてみれば相違ない。俺のために心を砕いてくれよう者を前にして、己が至らなさを詫びても詮無いことよな」

「だろ?」

「──ありがとう、リュウガ。おまえの想い、しかとこの胸に刻もう」

「オレたちはずっと一緒だ。あなたがどんなに離れたって、それだけは絶対に変わらない。愛してるよ、サイガ」

「ああ……俺も愛しておるよ、リュウガ」

 短く互いの想いを言葉に交わして、ふたりはそれぞれが在るべき場所へと戻っていった。




                               To be contonued...(2018/09/28)