| 受け継がれるもの 『よくも──』 マステリオンの声がじわりと深い闇を吐く。 正眼に立ちはだかる金色に身を包んだリュウガ目掛け、魔神は氷結の拘束を引きちぎって突進した。 『よくも邪魔をしたな、小僧!!』 その腹部にある巨大な顔の口が開き、すさまじいエネルギー砲が撃ち放たれる。 まっすぐ迷いのない直撃コースであったが、リュウガはそこに立ったまま動かなかった。 彼は知っていたのだ。間にショウが飛び込んできてくれることを。 「行くよ! ヴァンセット、共に力を解き放とう!!」 赤き翼をはためかせ舞い降りた彼が振るった剣と、マステリオンのエネルギー砲とがぶつかり合う。 一瞬として、もたないはずだった。……ショウが今のままならば。 『──ショウ』 彼の耳に、知らない声がした。 けれど、とても懐かしい、静かで優しい声だった。 『ボクらの成せなかったことを、貴方に託します!!』 「アレックス様!!」 応えたショウの剣が白炎をまとい、すべてを塵と化すはずのマステリオンの力を斬り裂いていた。 真っ二つに分かたれた波動は左右のあらぬ地点へ撃ち込まれ、神殿の石柱をいくつも巻き込んで爆発する。その土埃を赤く斬り裂いて身構えるショウもまた、金色をまとう神に等しき姿へと変わっていた。 「任せて下さい!」ショウは誰にともなく宣じた。「千年の因縁も、ここで終わらせてみせます!!」 時を同じくして、マステリオンを包囲していた残る光の戦士らにも変化が起きる。 彼らは各々、他の者には聞こえぬ誰かの声を聞き、それに応えていた。 「絶対にあきらめない!」地を砕くほどに力を込めた一歩で立ち上がり、シズクが叫んだ。「貴方の力、無駄にはしないわ!!」 「礼は言わんぞ!」その煌めくカギ爪で触手どもをねじ伏せ、タイガが言った。「アンタの力、存分に使わせてもらうぜ!!」 『失せろ、虫けらどもオォォォォォ!!』 咆哮を上げたマステリオンの身体から、覚醒時のものと同じ闇の衝撃波が放たれる。それは各自防御した光の戦士らを周囲から吹き散らして、魔神とリュウガとの間から一切の障害物を薙ぎ払う。 ──否。そうではない。 光の戦士らは衝撃波を機にマステリオンのもとから一斉に離れ、リュウガのもとに集結していた。懐かしき魂を宿す者たちの意思を受け、手にした光牙七支刀に溢れる光は今まさに解放の時を待ち侘びている。 そのとき、マステリオンの頭上へ高く跳躍する者が居た。 冷たい天空にひときわ輝く星の如く在るのは、黄金の輝きに身を包んだオウキだ。 「マステリオン!」彼は叫んだ。「これが最後の勝負だ!!」 それを合図に戦士らが散り、リュウガもまた地を蹴った。オウキを『中心』として、マステリオンを四方から包囲する陣形を作り上げる。 それぞれが手にした武器を地に突き立てて力を注ぐと、地に巨大な法円が出現した。リュウガの足下からは蒼く、ショウからは赤く、シズクからは黒く、タイガからは白い、よって多くの色が入り交じる鮮やかなそれが浮き上がり、マステリオンの巨体を幾重にも取り囲む。 このままオウキがこの魔神の頭に──法円の中心に力を打ち込めば、術が起動するのだ。 千年前には無かった、新たな術が。 『させるものか! 一度ならず二度までも、「貴様ら」に討たれてなるものか!!』 マステリオンが絶叫し、法円の包囲も振り切れぬままその隻腕を伸ばした相手はリュウガだった。 サイガを凌辱したおぞましき爪はすでに無いが、ヒトひとり握り潰すくらい、この魔神には何のことでもない。あわやこのままリュウガが無残に殺されようかという時のはずが、定置に在る戦士らは一歩として動かなかった。 すでに、決着を知っているかのように。 「……マステリオン」 リュウガは言った。敵意も何もない、静かで落ち着き払った声色をもって。 その目が何を見たのか、その心が何を感じたのかは知れない。だがすっと目を上げ、顔を上げたリュウガと視線が交わったとき、マステリオンの動きは刹那、停まっていた。 そしてついに、オウキの槍が法円の中心を貫いた。最後の色を得た豊かな彩りの奔流が導きを与えられ、ひとつの役目を果たすべく働き始める。 内に在る存在の絶大なる力を否定し、四散し、『調和』を保つべく無力化するために。 「火は総てを焼き去りて」ショウが謳った。「総てを生む温もりとなる」 「水は総てを浚いて」シズクが謳った。「総てを巡る流れとなる」 「地は総てを打ち割りて」タイガが謳った。「総てを育む常盤となる」 「風は総てを散らして」リュウガが謳った。「総てを伝える報せとなる」 「この神羅万象に敵う理は無し! 貴様といえど例外ではないぞ!!」オウキが叫んだ。 五霊神滅──。全員の言霊が重なり、法円が陣となって起動した。 陣の中心に生まれた光が、波のようにマステリオンの身体を飲み込んでいく。ここに捕らわれたが最後、五体は結合を失い、最後に剥き出しの魂が残るまで塵となり続けるのだ。 だが、魔神はこれですべてを諦めるほど簡単な存在ではなかった。 『どこだ、サイガ!』 光の中でも暴れ、咆哮を上げ、崩壊を始めた巨躯で術を打ち破らんと猛り狂う。ドドン、と陣が踏みつけられ殴りつけられるたび、該当の色を統括する戦士らの表情に苦悶が滲んだ。 『あなたとひとつになって、私は永劫に総てを支配するのだ!』マステリオンは叫んだ。『永遠にあなたを歪め、縛り、溢れ滴る断末の苦痛を喰らって、私は──』 「オウキ! 皆を頼む!!」 言うが早いか、リュウガが刃を振るって大きく跳躍していた。彼が抜け出たことで弱まった陣には素早くオウキが割り込んで、対処し持続させる。 本来は二刀を操るリュウガのために、そして本来は一対である自身のために、構えたその左手にも同じものが出現する。陣を敷くために相当な力を消費しているはずが、刀身には未だ溢れんばかりの光がみなぎっていた。 頭上で交錯した刃が互いに共鳴を起こし、激しい電撃をまとう。 『サイガ……ッ』縋るものを見つけたかのように、マステリオンが手を伸ばす。 だが応える手などありはしない。打ち下ろされるのは無慈悲なとどめの一撃だ。 一対の刃はマステリオンの肩口から胸に至るまでを抉るように斬り裂き、それだけに留まらずその全身に凄まじい電撃を叩き込んでいた。 「マステリオン」リュウガは言った。「おまえの敗因を教えてやる」 『敗因、だと? この……私に』魔神が言った。『この私に、ミス、など……ッ』 「あるさ!」 ざらりと崩れゆく巨躯から光の刃を抜いたリュウガは、今一度、確実な狙いを定めて二刀の刺突を繰り出していた。 「サイガを……、愛したことだああぁぁっ!!」 その眉間と喉元に、吸い込まれるようにして刃が通った。 『オォ……』発声を喉に頼っていないマステリオンが呻き、それは断末魔へと変わった。『オオオォォォォォ……!!』 手ごたえがあったのを確かめたか、リュウガはその場に留まるようなことはせず、すぐさま跳躍して魔神より離脱していた。直後に五霊神滅の効果をもろに受け、金色の巨躯が砂の城のようにバサリと崩れて塵と消えていく。 ──だが。 これで終わりではないことを、『彼ら』は知っている。 『これで……』闇の底から、魔神の声が響く。『これで勝ったと思うな……!!』 崩れ去った塵が再結成でもしたように、暗闇があたりを、戦士らをも覆い尽す。 そう、この闇こそがマステリオンの本体にして、魂。邪悪極まりない思念体なのだ。 千年前の戦いでは、サイガたちすら、実体を持ち得ぬこれを討ち取ることはできなかった。今のリュウガらもまた然りだ。倒す手段がない以上、再び封印するより他にない。 すっと中空へ持ち上げたリュウガの手に、大きな聖龍石の宝玉が出現する。 「おまえの封印は、未来永劫オレたちが守り続ける! だから今度こそ、永遠に──」 「──待て、リュウガ」 今まさに聖龍石を掲げようとしたリュウガの息が停まった。 その眼前に、リュウガに背を向けたかっこうでサイガが出現する。かなり消耗しているらしいことは、身体がうっすらと透けていることが物語っていた。 「あとのことは、俺たちに任せよ」 肩越しに言った彼が笑むと、他の戦士らの傍らにも、部族王の幻影が現れていた。 『サイガ……』 虚空を当て所なく彷徨う暗闇が、標を見つけてその周囲に集束する。 闇は気体に見えて質量を持ち、枷のようにサイガの手にまとわり、脚に絡み、髪の隙間へ入り込もうとした。 濃さを増した箇所に視線を向ける彼の目の前をフワリと横切り、頬を撫でてゆく。 『サイガ、愛しいあなた。永遠に、ひとつに──』 「ああ……いいだろう」 えっ、と見守る一同が息をのんだとき、オウキの傍らにいたシリウスの姿が眩い閃光となって、闇の一部を照らし出した。 ギャア、と短い悲鳴が響き、蒸発に等しい音を立ててその周辺の闇が晴れる。 同じことがショウの、シズクの、タイガの傍で立て続けに起こった。旧王の幻影らは自らを光に変え、闇を照らすことで一体となり、中和しあって消滅していく。 「今まで淋しい想いをさせたな。マステリオン」 サイガは両腕を伸ばすと、己にまとわりついた闇を抱いた。 はじめこそ、闇どもはこのサイガまで即座に光となって自分を抹消しに来るのではと危惧し、ざわめき退こうとしていた。けれどその抱擁を受けた途端、しんと静まり返ってしまう。 おぞましい闇であるはずが、もはや夜闇ほどにも沈静していた。 ザワ……、と虫が這うような嫌な音を立てながら、闇がサイガの背を包み返した。 「ずっと、俺を待っておったのだな」 『……』 「だが俺は、もう『ここ』には居らぬのだよ」 『……』 「俺はもう、だいぶと昔に世を去ったのだ。すまぬな……俺はおまえたちのように、長寿ではないのだ」 『あなたは、ここにいるよ』当たり前のように闇は言った。 「ああ、ここにおるよ」子をあやすようにサイガは言った。「これからはずっと一緒だ。共に無へと帰して、共に永劫を生きよう」 『……そうか』マステリオンは安らいだように言った。『そう、なのか……』 「待って。待ってよ、サイガ……ッ」 たまらず声を上げて踏み出しかけたリュウガを、オウキが引き戻して押し留めた。 静かに首を振るオウキを見て、止めることなどできないのだとリュウガは思い知る。だっていま止めてしまったら、これまでの何もかもがすべて水の泡になってしまうのだから。 どうして──。涙が零れ落ちるのも気付かず、リュウガは問わずにはいられなかった。 こんな終わり方しかできなかったのか。もっと他に道はなかったのか。誰もが笑って終わることのできる手段はなかったのか──。 闇とサイガは互いを確かめ合うように抱きしめ合った。覚悟を待ち、余韻を味わうわずかな間を置いて、サイガの身体が静かに光へと変わる。 彼の身体が、その身を包む闇が、互いに溶けあい消えていく。 そのとき、サイガはリュウガを振り返った。消えゆく自分を見つめながら、言葉もなくただ泣いている子供を。 その顔が、ふっと微笑む。 『強く在れ、リュウガ』 サイガは消えた。 千年前に成し得なかったことを成し遂げ、満足して消えていった。 神魔界の黒雲が晴れ、薄明が訪れる。 神殿の近辺に結集していた皇魔の軍団は、いつの間にかその気配すら無くなっていた。先導者であったボーンマスターが討たれ、そして神に等しいマステリオンが倒されたとあってはそれも当然か。 しばらくは静かな時代が続くだろう──渡ってくる風にどこか清涼さを感じながら、ベリアールは思った。いつまで保つかは、判らないけれど。 「光牙七支刀に宿っていた彼の者は、その意志の欠片であって心そのものではありません」 ほとんど崩壊してしまった神殿の中で、今までに居なかった、涼やかな女の声が響いた。 「マステリオンは自身の完全復活の際、その妨げになるであろう光龍の力を自らに取り込むべく──そして、旧時代の光龍帝にその力を遺させまいとして、過去からあれを奪ってここへ転送してきたのです」 外では程なく朝日が昇り、薄闇であった神殿の中にその光が届くようになった。 照らし出された女は、美しい女神であった。華を抱く六本ものしなやかな腕を持ち、見る者万人に安らぎを与える慈愛の笑みを湛えている。闇を喰い尽されて崩れ去った魔創卵の中からこの女神が出てきたときには、一同度肝を抜かれた思いであった。 だが今にしてようやく、創世の時代にマステリオンと戦ったことに因りこの地に永らく封じられていた彼女も天界へ帰ることができるという。魔神が滅び、創造の女神もまた天へ帰る。これほどめでたいことはない。──はずなのだが。 「では……」ショウが言った。「何故あの七支刀は、サイガ様の御姿に?」 「やっぱり、持ち主の姿になっちゃうものだったのかしら?」シズクが首を傾げて言った。 「いいえ」 女の声は静かに答える。 「それは……マステリオンが、あの者を愛していたからでしょう」 一同は口を閉ざし、俯いた。 あのような邪悪な魔神にも、何かを、誰かを愛する心などあったのだろうか──当然のごとくその疑問がわきあがる。 けれど、サイガに抱かれ、眠るように消えていったあの闇の姿を思い出せば、それが最高の救いであったように思えるのだ。 「己の復活が近付いていることに、魔神は気付いていました」女神は言った。「けれど、この時代にあの者がいないことにもまた、気付いてしまいました。あの者の気配も力の片鱗も残っていないこの世界で、彼は己が手にする物にその姿を求めたのかもしれません」 「……そんなの、自分勝手だ」 吐き捨てるようなその言葉にタイガがちらりと視線を落とすと、隣にいたリュウガが俯いたまま拳を握っていた。肩口が小さく震えている。 そんなおまえの自分勝手で、こっちに呼び出されたサイガの身にもなってみろ──。リュウガは今一度、魔神をぶん殴ってやりたい衝動を堪えていた。 オレたちの時代にサイガの気配が何も残っていなかったのは、もうすでに過去からおまえがサイガの存在を奪い去っていたからじゃないか。全部自業自得だ、それならあいつはサイガのいない世界によみがえって、孤独という罰を受けるべきだった。 サイガに会えて、言葉をもらえて、ああして一緒に最期を迎えられて。それがどれだけわがままで、どれだけ恵まれていたか気付きもしないであいつは逝ってしまったんだ──。 「クリエール」リュウガは震える声で女神を呼んだ。「オレは……どうしたらいい?」 「……」 女神は口を開かず、リュウガを見つめていた。 今度こそサイガの存在が消えたこの世界で、自分はこれからどうやって生きていけばいいのか。それがまったく見えず、わからない。マステリオンという最悪の脅威が去った以上、光の戦士という存在にさえ意義があるのか疑ってしまう。 なんでもよかった。なにかひとつでいいから、これからの自分が目指すべきものを与えてほしかったのだ。 「……リュウガ」 その女神の呼びかけを聞いて、リュウガは遅まきに気が付いた。 この声……サイガと出会ったあの日、オレを呼んでたあの声だ──。 「あなたはすでに、答えを受けているはずです」 「え──」 「彼の者の幻影は失われましたが、光龍の力はあなたに宿っています。その額に消えることなく残った、聖龍の紋が何よりの証」 リュウガは唖然と、自分の額に手を触れる。鏡になるものは無いし感触では判らないけれど、仲間らもまた、そこにサイガのそれに似た紋が残っていると口を揃えた。 「強く在りなさい、リュウガ」女神は言った。「彼の者が、最期にそう望んだように」 『強く在れ、リュウガ』──。 記憶を呼び戻す一瞬の間を置いて、リュウガは息を震わせて奥歯を噛み、顔を伏せる。 そっと歩み寄ったシズクがその肩に手を置き、頭を包むように抱いてやると、彼はとうとう声を殺しきれず嗚咽をもらした。 タイガも、ショウも、オウキも、何も言わなかった。 みんな、リュウガの涙に自分の感情を重ねていた。 魔界の夜が明け、すでに世界では新たな時代が幕を開けている。けれど彼らはこのとき、あともう少しだけこの場に留まる猶予を与えられた。 せめてその涙が乾くまで。 せめて彼が、安らかに眠れる日が来るまで──。 幕引き サイガが目を開くと、そこには数名の見知った顔ぶれがあった。 ライセン。 シオン。 そしてクオン。 皆、揃いも揃って目を潤ませている。特にクオンなど、幼い子供のようにぼろぼろと涙を零して泣いていた。 なんだ、まるでリュウガのようではないか──。ふ、と彼は小さく笑む。 「サイガ様…っ」 堪え切れずクオンが泣き伏し、泣き声で自分を呼んだ。 そうか──。 周囲の奴らがあまりにも『変わらない』ものだから意識が混濁してしまっていたが、彼はやっと思い出していた。 『今』となってもう、自分の周りにはこの者らくらいしか残っていなかったことを。 「長い……長い夢を見ていたよ……」 サイガは息を吐きながら言った。呼吸と言葉をうまく合わせられず、声も出しにくかったけれど、それでも話しておきたかった。 「ライセン」 「はい」 「あとのことは、頼む」 「……」 ライセンは答えなかった。ぐっと口元を引き結び、堪えるように俯く。 強く勇ましく厳格であった師よ、何と情けない──。 「案ずることは何もない…」 サイガは目を閉じ、笑みすら交えて言った。 「あの子らが居れば、この世は……神羅世界は末永く安泰だ」 「何を言われるのです、サイガ様っ」クオンが首を振り、全力で否定した。「あなたが居なければ……、あなたでなければ、私はっ……」 「よしなさい、クオン」 同じようにめいっぱい泣いているくせに、シオンはクオンの肩を引いて下がらせようとしている。そのうちふたりは抱き合い、共に崩れて泣いた。 やれやれ、困ったものだ──。サイガはたまらず苦笑いした。 もっとたくさん話しておきたいはずなのに、何も言うべきことがない。 遺すべき言葉も力も、もう、なにも。 いや、そういえば──。彼はふと思い出した。 あまり皆に言ったことのなかった、日頃から心に抱いていたその言葉を。 「皆……」 サイガのか細い声にシオンとクオンが身を伸ばし、ライセンが注視する。 「ありがとう。……今まで、楽しかったよ……」 大きく息を吸い、すべてを吐き切るようにして彼は言った。 皆の返す言葉を待てず視界が霞み、意識が沈む。 温かな水底に迎えられるようなその感覚は、ひとりきりでその瞬間を迎える彼の心に安らぎを与えた。 (俺もやっと、眠れるのだな……) ありがとう──。薄れゆく心がもう一度放ったその意思は、もう言葉には乗らなかった。 光龍歴、九十と余年。 光龍帝サイガ崩御の報は、数刻と待たず神羅連和国全土に伝えられた。 第二章 FIN(20016/06/26) |